「その後は自分でどうにかしなきゃいけないのに」学校に行かなくてもいいというメッセージに10代が感じること。
夏休みが終わる頃、不登校の子どもに向けて「学校に行かなくてもいい」「逃げてもいい」というメッセージを多く見かけます。「このメッセージについてどう感じますか?」とアンケートで尋ねると、13歳〜25歳まで307名から回答がありました。
「あまりにも無責任だから」と、もやもやするを選んで回答していた、10代の結衣(仮名)さん。小・中学生の頃に不登校となり、現在は定時制高校に通っています。
「強い言葉で書いちゃったんですが…」と言いながらも、率直な気持ちを話してくださいました。
Q.学校に行きづらいと感じたきっかけやその時に感じていたことを詳しくおしえてください。
アンケートにあった、結衣さんの回答です。
A.きっかけは覚えていません。ただ、家の事(親がマルチ商法にハマっていた)ことや、離婚、生活リズムの乱れ等の複数の要因から不登校になりました。中3から図書館、保健室登校や登校支援室でようやく学校にいけるようになったので勿論授業にはついていけなくて、将来の夢もとくに無かったので「自分はこれからどうなるんだろう」と不安で堪らなかったです。当時は毎日死ぬことばかりを考えていました。
ー結衣さんが学校に行きづらいと感じたのはいつ頃でしたか?
「小学校の頃から、なんか行きたくないなぁと。その時に、家の事情もあって。親は、不登校の時もサポートしてくれて。仲良かったけど、自分は親に思うところがあって。
中学校で環境が変わったら(学校に)行けるだろうと思ってたけど、行けなかった。中3からなんで行き始めたのかはよく覚えてないんですけど、進路に対する焦りがあったのかな。
スクールカウンセラーや登校支援室の方や、特別支援級の方、図書館の方だったり、いろんな人と話していくなかで、なんとか給食だけ食べに行くとかお話しする感じで学校に行ってたかな」
ーお家の事情もあったとのことですが、誰かに相談してみようと思ったことはありますか?
「ない!ですね。ない、というか、言いたくないよなあ。言えたらいいなぁと思うけど、それで誰に言ったらいいんだ?ってのもあるし、何を言ったらいいんだ?ってのもあるし、どう伝えたらいいんだ?っていうのもある…し、じゃあ、相談のお電話みたいなので伝えたとしても一回で全部言えるかといったら、それは無理だし。自分のパーソナルなことは、長く信頼関係が築けて、やっと言えるみたいなことだと思うので。言いたくないというよりは言えないよな。難しいよなあと思います」
ーいろんな方と関わるなかで、こういう関わりがよかったなと思うことはありますか?
「スクールカウンセラーの方は、他の人とは全然違うと思いました。中学を卒業する時に高校受験したけど、その時は受験会場に行けなくて。
けど、そのスクールカウンセラーの方は…だけは、『25歳までに、高校に進学するなり進路を決めたらいいよ』って。それは、25歳までに決めなさいというわけでなく、決めておけばいいんじゃない?みたいな。その時は『そんなわけないじゃん!』と思って『そうなのかな…?』とも思って。その言葉がずっと頭のすみにあったし、すーっと心がほどけていくような。話し方もすごくフラットな感じで、いい方だったな。
みんな高校は決まってたし、推薦で高校決まったとかも。保健室にみんな報告をしにくるんですよね。聞いててすごく焦った。
みんなが3年間中学校でずっとやってきたことを、たかだか数ヶ月で追いつくとかは無理だし。そんな精神的余裕だったり、この高校に絶対行くぞみたいな元気だとか、エネルギーが自分の中になかったので。これからどうなるんだろう、どうにもならないよなと、先が見えないような感じがすごくありました」
ー今は高校に通われているんですよね。それまでの間はどのように過ごされていたのでしょうか。
「その時が一番きつかったかも。中学校に通ってる時は、なんだかんだ自分は中学生という枠組みで生きていられて。卒業した後は、どうやって高校に願書を出すんだろうとか。受験会場に行けなかったからすごく気分も落ち込んでいました。
家で映画みたり、本読んでたりしていたけど、その時の日記には、洗面所まで行ってへたりこんでしまったとか、ひとりで買い物できたとか、バスに乗れるようになったとか。
そんなレベルで、ゆっくり回復していって。部屋のゴミを全部捨てて、環境から自分で整えて、朝ご飯ちゃんと食べたりとか決まった時間に寝たりとか。だから、うーん…そういう人間の基礎的なこと…が、やっとできるようになって、それでもまだ自分ってなんでこんななんだろうとか、これからどうなるんだろうとか、死んじゃいたいなとかがずっとあった。
風呂掃除とかお皿洗ったりをやっていくなかで自信が持てるというか。大袈裟だけど、『まだ生きてていいんだな』と思えるようになったかな。
けど、やっぱり不安ですよね。生活ができるようになるまでは、本当に死のうと思った時もあったし。
不安だったから、(高校に)行きたかった。学校見学に行くことを決めたのも自分からだし、『見学したいです』と電話したのも自分から。結局決めたのは周りからでなくて自分だったかな。精神が徐々に回復していったからかなと思います」
ー自分の気持ちを言葉にされていてすごいですね。たくさん振り返ったり考えたりされたんだろうなと感じました。
「いろんな人が支えてくれたのもあるけど、やっぱり自分と向き合うというか、本読んだり、じーっと考えたりする時間がすごくあったので。でも、高校入ってからもすごい大変だなと思うこともあって。
希望通りに高校に入れて、『よし!』と思ったけど、やっぱり学校にずっと行ってなかったから、ペースもわかんないし、人とコミュニケーションとるのも頑張りすぎちゃうところがあって。心が疲弊してしまって10日間ぐらいがんばって、そのあとは行けなかったので。また不登校になってしまって…たんだけど、今年からはなんとか、体育の単位が危ないけど(笑)行けてる。
勉強もすごい頑張るんじゃなくて、頑張りすぎないようにすることを頑張っています。今は調子がいいかな、これからはわからないけど。とりあえず今日も学校に行けたし、お弁当は家に忘れたけど(笑)部活もすごく楽しいし。それはいいことだなって」
Q.「学校に行かなくてもいい」「逃げてもいい」というメッセージについてどう感じますか?
A.もやもやする。あまりにも無責任だから。本当につらいなら無理して学校に行く必要は無いとは思うけど、その後の不登校児の将来について考えた意見をあまり見かけたことがない。私は個人的に学習の遅れはなるべく早めに対処をすべきだと思うけど、頑張りすぎて心身的に疲弊している子が回復するには時間がかかるから勉強をやるエネルギーなんか無いと思う。それでも、学校や行政と、家庭のつながりを大事にしてほしい。
ー無責任と書いてくださってましたね。わたしも、その言葉だけでは不十分なんじゃないかなと思うことがあります。結衣さんはどんなふうに思っていますか?
「強い言葉で書いてしまったのですが…フリースクールとか不登校支援室とかもあるけど、そもそもそこに行けなかったり、行く元気がなかったり。寝て、起きてが精一杯という子は行けない。
学校という、一応勉強できて、サポートが受けられる場から出ちゃったら、その後は自分でどうにかしなきゃいけないのに。
休むことは、自分はすごく大事だと思ってます。すごく疲れて自分じゃ何も決められない、考える元気もないような子に、『どうしたいの?』『これからどうするの?』と言ってもすごく苦しいことだと思う。それは休んでいいだろうと、休まなきゃいけないだろうと思う。
ただ、これちょっとやってみたいなとか興味があるなと思ったり、元気が回復してきたタイミングでうまくサポートが受けられるような。そうなったらいいなというか、そうであったらいいな」
ー学校と行政を大事にしてほしいについて、そう思うようなことがあったんでしょうか?
「うーん、学校は出ちゃったら関わりがなくなってしまうけど、住んでいる街は理由がなければ引っ越したりもしない。
…行政が何をするところなのか自分はよくはわかっていないけれど、家庭だけで閉じこもってしまうのは、すごく危ないことだなって。社会とのつながりというのを自分は大事にしていた、というか。自分の今いる家と社会的なつながりがプツンと切れちゃったら、すごくしんどい。支えている親もすごく忍耐のいることだし、だから子どもだけじゃなくて、親にもサポートがいるだろうなと思いますね」
Q.どんな学校だったら行きたいと思いますか?
A.職員室にノックなしで気軽に入れる学校。
ーおもしろい回答だなと思いました。これはどういうことか教えてもらえますか?
「何年何組のなになにです!入ってもいいですか?」みたいな(笑)職員室の中で、テストも作ってるし、(生徒を)いれちゃいけないんだろうなと思うんですが、通ってる高校は気軽に入れるので、いい学校だなあと思います」
ーその制度ありましたね。結衣さんは、よく職員室に行かれるんですか?
「行きますね。保健室と職員室と図書室は涼しいし、だるいなと思ったら行ったり、早く学校に来ちゃった日とかも。ホームルームが週1回しかないので、週1回30分だけ先生とふたりで話す時間を取るようにしていて」
ー先生とは、どんな話をされるんですか?
「掃除の当番があるんですが、他の当番の人が遅くて。でも、早く帰りたいから、いつも自分が掃除機をかけていて。頑張りすぎちゃう、という話をしました。
あとは、映画を見に行っておもしろかった、このゲームいいですよとか、先生って休みあるんですか?とか。真面目な授業や生活の話もするけど、だいたいは雑談かな。コンビニのアイスがおいしかったとか」
ー職員室の前で大声で呼ぶ制度だと、相談とかちょっとした雑談はしづらいですもんね。
「扉はずっと空いてて、自由に入れる。みんな、休み時間になったら入って行って、机があって、そこで相談したり、勉強したり、スマホいじったりとかができる。そこが今の高校のすごく好きなところでもあって、そうなったら楽しいだろうなと思います」
ーくわしくお話をきかせていただきありがとうございました。
文部科学省が発表した「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、小・中学校における長期欠席者数 287,747 人(前年度252,825 人)。高等学校における長期欠席者数 80,527 人(前年度76,775 人)となりました。
調査の上では、長期欠席や不登校と一言にまとめられていても、ひとりひとりに背景があり考えがあります。わたしたちは、若者の声に社会を動かすヒントがあるのではないかと考えています。そんな彼らの声を社会へ届けていきたいと思っています。
D×Pは、若年層と関わるとき「否定せず関わる」ことを大切にしています。相手や自分の考え方、価値観、在り方を否定せずに、なぜそう思うのかと背景に思いを馳せながら関わる姿勢です。
他にもたくさんの声が届いています。ぜひ、ひとりひとりの状況を想像しながら“声”を読んでみてください。
「一概に休めばいい、行かなくちゃいけない、なんて言わないで」不登校について13~25歳、307人と一緒に考える