D×Pタイムズ
D×Pと社会を『かけ合わせる』ニュース
D×P×10代

「自殺願望が消えません。学校にも行けなくなったのに、普通の職場で働ける気が全くしません」どうやって働く?を一緒に考えた2年間。

2020年の春、認定NPO法人D×Pが運営するLINE相談「ユキサキチャット」に当時18歳だった瑠衣さん(仮名)からメッセージが届きました。お腹の不調が続く過敏性腸症候群(IBS)を抱えています。

「自殺願望が消えません。本当は生きたいのですが、体調の不安があり学校にも行けなくなったのに、普通の職場で働ける気が全くしません。働けるなら働いて自立したいです」

最初のメッセージから約2年。やりとりを重ね、瑠衣さんに合う働き方を一緒に考えました。

とにかくお腹の調子が悪くて、もう死にたいと思っていました。

「とにかくお腹の調子が悪くて、授業中もお腹のことしか考えてなかったと思います。体調が悪いのが一番初めで、引っ張られて気持ちも落ちて、転げ落ちるみたいな。もう死にたいと思ってました」

お腹の不調は、中学生の頃から。痛みや不快感、下痢や便秘の症状が続く日々。不調の原因もわからず、死にたいと思うことも多かったと瑠衣さんは言います。

瑠衣さんはみんなと同じ時間に授業をうけるしかない学生時代がつらかったと言います。(イメージ画像)

「おならが出そうと思ったら出そうな気がして、下痢になりそうだと思ったらなりそうな気がして。でも休み時間にトイレにいったら何も出なくてという感じで。学校はみんなと同じ時間に授業を受けるしかないから、ほんとに辛いですよね。隣の席の生徒との距離も近いので、机と机の間に透明なしきりがあって、一部屋ずつ区切られていればいいのに…と妄想をめちゃくちゃしてましたね」

今は、病名も知られてきた過敏性腸症候群。病名をSNSで検索すると、悩む学生の声も見受けられます。瑠衣さんは体調の不安が大きく、進路について考えることもできませんでした。家から近い高校に進学しましたが、雰囲気も合わず中退。死にたくて毎日泣いて昼夜逆転する状態を見かねた家族の提案で、半年ほど親戚の家で暮らすことになりました。

瑠衣さんは親元を離れ、親戚の家で暮らすことに。(イメージ画像)

「お腹のことで本当に悩んでたんですが、親は真剣に聞いてくれなくて。それもしんどくて。高校を中退した頃に、やっと病院に行きました。当時は、過敏性腸症候群という病気も一般的にはあまり知られていませんでした。病院では、40代ぐらいの男の人がよくなる病気ですね、と言われ、そこで初めて親から『そんなに苦しかったんだね』と言われたんですよね。遅すぎる理解の言葉にもイライラしていました」

家族と離れて暮らすことで、イライラすることが減って精神的にも落ち着くことが増えました。親戚家族や周囲の人の勧めにより、それまでしたことがなかった料理やヨガ、手芸などさまざまなことをやってみたそうです。体調に合わせて学べる通信制高校に編入もしました。

メンタルが安定している時は、未来につながること一緒に話して。死にたいときは、わたしがめちゃくちゃ喋って。

ユキサキチャットに相談したのは、通信制高校を進路未決定で卒業した後のことです。ユキサキチャットでは、瑠衣さんの悩みや考えていること、趣味や好きなことなどを聞きながら、どんな働き方が合うのかを一緒に考えていきました。

ユキサキチャットとは? 
不登校・高校中退などの困難を抱えた10代が進路や就職についてLINEで相談することができる窓口です。相談員は、社会福祉士、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント、教員免許保持者などさまざまな専門知識や経歴を持つ人がいます。従来の進学や就職にとらわれず、本人の希望を聞きながら相談者にとってよりよいかたちを一緒に考えていきます。

「ユキサキさんから、瑠衣さんはこういうことが得意なのかな?と話をしてもらって。体調に不安があったので、将来的に在宅ワークができる仕事がいいかなという話もしました。その上で自分に合いそうな仕事を一緒に考えて、そのためにはこんな勉強してみる?って。ユキサキさんから提案をうけて、プログラミングもやったりしたかな

当時のやりとり。本人と相談員とで「いつまでにどの言語をどれぐらい取り組むか」という目標も決めていました。

初めはプログラミングって聞いて、できないと思ったけど、やってみたらできるんです人間って(笑)親戚の家でもいろいろ勧められて、初めはできないと思ったこともできたから。いまはやれることがあったらやりたいな、やってみようと思うようになりました」

精神面は、調子のいいときと悪いときの波もありました。

「メンタルが安定している時は、未来につながることを一緒に話してもらって、メンタルがやばいとき、ぶっちゃけていうと死にたいときは、わたしがめちゃくちゃしゃべって。なんだろう…聞いてもらうみたいな。傾聴?してもらうみたいな感じで」

最近出かけた場所。海がない地域に住んでいるから「匂いとか風とか最高!」と撮影。(本人提供)

あんなに死にたかったのに、意外と生きてるな。

勉強したり、考えたり、気持ちを吐き出したりしているなかで「案外、外で働くことができるかもしれない」と感じた瑠衣さん。アルバイトの面接も、働くのも初めてのこと。たくさん怒られたし、少しブラックだったという仕事を「辞めるのはいつでもできるから」と半年間続けました。

「バイト先では、わたしの失敗であわや大事故みたいなことがあって。社員のあいだで、瑠衣さんが問題行動を起こしていると言われていたそうです。そういったこともあって、先輩から嫌われていて。親から、よく瑠衣は言葉が足りないし怖く見えるから、思ったことも優しくいったほうがいいよと言われていたんです。なので嫌われていた先輩に、『何か思ったことがあったら小さいことでも教えてください、直します』と伝えました。それから、ちょっとずつ心開いてもらえて、辞める前には仲良くなった…と、わたしは思ってます!」

半年間続けたアルバイトを辞め、再度ユキサキチャットに相談がありました。

「その時は、働いて自立するために何か資格をとったほうがいいと考えていました。ユキサキチャットを通じて、ネイリストの方を紹介してもらい話を聞いたりもしましたね。その後、ハローワークで職業訓練があるということで、面接に行ったら受かったので3ヶ月職業訓練を受講しました。今の仕事がしたかったわけではないけど、3ヶ月仕事しなくていいならやろうと思ってたんです。が、今は資格を活かして働いています。20歳を超えて生きているって思ってなかったので、あ〜…生きてるんだ〜と思います。あんなに死にたかったのに、意外と生きてるなって」

今年の6月に出かけた時に、咲いていた紫陽花。時期が早かったけどきれいだったとのこと(本人提供)

身近な人に悩みとか話されると、何か言っちゃうじゃないですか。でも、そういうのがなく聞いてくれる

仕事の日は8時間働き、休みの日は好きなアイドルのグッズを自分でつくったり、絵を書いたり、映画を見たりするという瑠衣さん。過ごし方は10代の頃とあまり変わっていません。ユキサキチャットでやりとりするなかでも、時々“最近見た映画の話”をしていました。

「当時やりとりしていた相談員さんとわたしは全然映画の趣味があわなくて。わたしは、コメディ?とか馬鹿げた映画が好きなんですが、相談員さんはどっちかっていうと性善説っぽい映画が好きで。そもそもわたしは性善説が好きじゃないんですけど。でも好みが違っても好きになれるんだな、人をと思って。え、どんなオチ?(笑)」

最後にユキサキチャットを誰かに紹介するなら、どんなふうに伝える?と尋ねてみました。

「話を否定したり、途中で止めたりしないで最後まで聞いてくれるところかなと思います。なんか…自分もそうですが、身近な人に悩みとか話されると、自分なりに何かしてあげようと思うにしろ思わないにしろ、何か言っちゃうじゃないですか。でも、そういうのがなくユキサキチャットは聞いてくれるから。そこを伝えるかなって思います。

お腹は、今も治ってないんですよ。下痢をしたとき、あの頃はもう死ぬという気持ちでいたんですが、いまはまあ出せばいいか、みたいな。受け入れ…ではないけど、そういうこともあるか〜って流せるようになった気がしますね。

死にたくて死ぬのは、それはひとつの選択だと思うので、死にたい気持ちを消す必要はないかなと思うんです。死にたくて死んじゃおうと思って死ぬのも道だし、死にたいけど死ねなくて生きてるというのもひとつだと思う。ちょっとずつ前向き?っていうのも変だな…いい気分になってきて、なんかやろうかなと思えるならそれもそれで道かなって。

生理前に、あー死にたい!って思うこともあるけど、話したら聞いてもらえる。じゃあ、いまじゃなくてもいいかって。死ぬのはいつでもできるからと考えられるようになった。それが18歳からの変化かな」

蓮の花びらが大きくて、自分の手と比べた写真(本人提供)

Share

Top