「助けて」と言えない環境を放置してよいのか。登録者8000人のLINE相談の現場から【今井紀明】
梅雨になる前に東京駅を歩く。今とは違って、日差しは強いが、まだ暑さは控えめな時期だった。僕は何人かユキサキチャットで出会った関東の10代や若年層の子たちと連続で面談していた。
「言いたくないことは言わなくていいですからね」と僕は言い、静かに話を聞く。ユキサキチャットにたどり着いた経緯や現在の収入状況など聞き、家庭環境や滞納や借金の有無、聞くことができれば虐待やDV(家庭内暴力)などがなかったかも聞いていく。
「自分なんて、支援されるような人間じゃないと思うし、他の人の方が大変なのだと思いますが」
この枕詞を連続して聞いた。僕は少し息を吸い、ゆっくりと話す。
「助けてって言いたい時に言えるような、その言葉を社会が聞いてくれるような社会にならないといけないと思っています。しんどい時はしんどいって言っていいんです。あなたは、本当に頑張りすぎるぐらい頑張ってきたと思います。できる限りのことを、私たちの方でもしますね、一緒に色々と考えていきましょう」
と、少し言葉を選びながら話す。面談したひとりは、少しそこで泣いていた。「いくつかのオンライン相談の窓口にいきましたが、返信がなく、ユキサキチャットで初めて自分の状況について話せました」と話していた。
ユキサキチャットの給付や食糧支援を受けている子の27.1%は「誰にも相談できていない」と問い合わせの時点で答えている。この結果からも、相談のハードルの高さを感じる。
内閣府が公表する「令和元年度 子供・若者の意識に関する調査」に以下のようなデータがある。社会にはさまざまな相談の場やサポートを行なう場があるが、一番よく知られている場所でも全体の50%に満たない若者しか存在を知らない。また、さまざまな支援機関を知っていたとしても、約70%の若者が積極的に「利用したいと思わない」と回答している。
進路相談、いじめ相談、自死の相談などさまざまな相談はオンラインでできるようになってきたが、困窮についてはオンライン相談が少ない。また、生活保護や給付金、公的貸付含めてオンライン上で申請もできず、また給付が入るまでに一定の時間もかかる。若年層にとっては相談したい時に相談窓口か、電話相談しか選択肢がないという状況は物理的にもハードルが高いと言わざるを得ないだろう。
そして、総務省の国勢調査によると、15~24歳の単独世帯は約197万世帯(令和2年国勢調査)。このうちの約3割(※令和元年度 国民生活基礎調査 より、29歳以下の世帯のうち年間所得200万円未満の世帯の割合)が生活が厳しい状況だと仮定すると、約59万世帯、59万人が貧困状態であると仮説がつく。
実際には同居世帯の子どもたちや若年層も厳しい世帯もいるので、数としては100万人以上になるのではないかと推測するが、実際にD×Pのユキサキチャットの登録者は8,400名、そのうち給付支援や食糧支援ができたのは1,000人も満たない。1%にしか満たない数しか、私たちはアウトリーチや支援ができていないのだ。
「助けてほしい」と言いたい時に言えるような環境にはなっていない、特に若年層にとってはそれが他の世代よりも言いにくい社会になっていることは大きな課題だと思っている。子どもたちや若年層が生活ができない、ガスや電気が止められている、食べれていない、そんな状況で「助けて」と言えない環境を作っていいのだろうか。これから、そのような環境を放置していいのだろうか、とオンライン相談の現場で僕は思っている。
(※)年間所得200万円以下の割合(29歳以下世帯)
つながり続けることの大切さ
最後に、ずっと心に残っている言葉がある。出会ってから、数年。今もやりとりを続ける、ある10代の言葉だ。
「僕は、家を出て数年が経ちました。もう数年も経ったんだから、大人になったんだから自立しないとという意見もとてもわかります。自分でもいつまで縛られているんだろう、虐待を思い出すんだろうと思うからです。
でも、僕は高校生で保護されるまで、ごはんをほとんど食べられなかったり、殴る、首を絞められるなどの暴力を受けて育ってきました。
そう考えると、僕は暴力のない世界を知ってからまだ数年しか経っていません。暴力のない世界が人生の4分の1にもなっていない今、「もう暴力はないよ」と言われてもすぐには信じられないし、今も怖さが消えません。
虐待は保護されたり大人になったら終わりではありません。むしろ大きくなるほど自分の受けた虐待について深く理解していくので、施設を出たり成人してからも、DxPのように支援してくれる場所や、自立に向けて長い期間をかけてサポートしてくれる制度を増やしてほしいです」