D×Pタイムズ
D×Pと社会を『かけ合わせる』ニュース
D×P×10代

『正常な人』なんていないけれど。どんな人が集まる社会が理想のカタチ?

学校を卒業して就職をするとき、『社会に出る』といいます。

それ以外にも、社会のルールだから、社会人としては…何気なく使う『社会』という言葉は一体どういう意味なのでしょうか?

生活空間を共有したり、相互に結びついたり、影響を与えあったりしている人々のまとまり。また、その人々の相互の関係。

三省堂 大辞林

辞書によると、つまりは人との関わりのこと。そう考えると、『社会』は漠然とした何かではなく、体温を感じるものとなります。

わたしたちD×P(ディーピー)は高校生と関わるNPOです。彼らが高校を卒業して社会に出てゆくのを見つめるなかで「どんな人が集まる社会なら、一人ひとりが希望をもてるだろう?」と思うようになりました。

そんなことを考えていた時、D×Pがクレッシェンドに参加した元高校生のKくんに出会いました。

クレッシェンドとは? 
通信・定時制高校で行っているD×Pの独自プログラム。高校生とD×Pのボランティア「コンポーザー」が対話する全4回の授業です。ひとりひとりに寄り添いながら関係性を築き、人と関わってよかったと思える経験をつくります。4回の継続した授業のなかで次第に人とのつながりを得て可能性が拡がるように、音楽用語でだんだん強くという意味のクレッシェンドと名付けています。

機械をいじっていた工業高校から、社会福祉士をめざす

工業高校で機械をいじっていたというKくん。高校では、ブロック状の鉄を切り出して、自動車の部品を作るなど、機械工業の勉強をしていました。中学生の頃から、お父さんに「高校を出たら働いてくれ」と言われいて、卒業後は就職する気満々だったのだそうです。

Kくん:高校2年の終わりぐらいに父親から「やりたいことあるんやったら、やったらいいよ」って言われたんです。その時は、「え、もう定時きたで。しかも、工業やで?」と思ったんですが…。今からでもやるかと思い、もともと興味があった社会福祉士を目指すため進学をしました。

社会福祉士は、 身体的・精神的・経済的な困りごとのある人から相談を受け、日常生活がスムーズに営めるように支援を行ったり、困りごとを解決できるように支えたりする仕事です。多くの人の目に触れる仕事ではないのかもしれませんが、なにかきっかけはあったのでしょうか?

Kくん:小学生の頃から、ひとり親家庭で育って。ある日学校から帰ると母親がいなくて、家の中はすっからかんになってて。そこからは、父親と暮らしていました。父親に「学校に行かへんねんやったら、家事してよ」と言われたことがあったんです。それまでも家事はやってたんですけど、家事やるんやったら行かんでいいやんって。学校に行かなくていい理由ができてしまって。

中学校に行かない日々が続くと、Kくんは精神科に連れて行かれることになりました。そして、そのまま入院が決まります。体調としては、それほどしんどいと感じなかったKくんは、不登校が重く受け止められることに驚いたと言います。

Kくん:病院で精神保健福祉士の人に出会って、この人ええやんって思いました。やさしくて、その人に相談とかいろいろしてたから、信頼もしていました。めちゃくちゃいい人で恩があって。その精神保健福祉士の人を探してるんですよね、病院は辞めたみたいで。まあ、またどこかで会えるやろうと思ってるんですが。

その人がきっかけで精神福祉士に興味をもったKくん。その後、社会福祉士にも興味を持ち、いまは介護の資格をとるために勉強中なのだそうです。

中三のときの先生が、熱くはないけど、とにかくいい人やったんです。

予期せぬ入院でしたが、精神保健福祉士さんとの出会いはKくんにとっていいものでした。退院をして中学に戻ると、また次の出会いがあります。

Kくん:退院して、最初は学校に行く気だったんですが、馴染めなかったんですよ。不登校だったし、他の生徒は僕が転校してたことも知らないから「元気やったか?」みたいな感じだったんです。授業は1時間ぐらいうけて、そのあとは体育館裏や非常階段で過ごしていて。暇だったけど、全然授業についていけなくて。院内学級で勉強していたといっても、中1の内容だったから連立方程式とか、知らんわって(笑)。

高校受験を意識し出す中3の夏、周りの生徒や先生は受験に向けて動き始めていました。勉強についていけなかったKくんは、担任の先生から声をかけられます。

Kくん:中3のときの先生が、熱くはないけど、とにかくいい人やったんです。その先生が、夜間(定時制高校)いけよって言ってくれました。「高校を卒業しても選ばんかったら、就職先はいっぱいあるで。」って。

父親にも卒業したら働くと言ってたので、「じゃあ、そうする」というのが始まりでした。高校のオリエンテーションには、その先生と一緒に行きましたね。そんなに思い入れはなかったけど、「これでいいや。家からも遠くないし。」と。そのまま定時制高校に通うことに決めました。

高校2年のときは、就職ってずっと決めてて。でも、だれがきっかけなんやろ…?

定時制高校に進学したKくんが、D×Pと出会ったのは高校2年生の冬のこと。

D×Pスタッフ:D×Pが開催する「クレッシェンド」の授業については何かきいていたの?

Kくん:先生からは、「大人が、なんか喋りにくる」って聞いてました。僕、早く帰りたい人なんですよ。朝から働いていて、だから次の日に備えたくて。金曜日は少し早く帰れる日だったんですが、先生から「大人がきて話するから、遅くなるで。」と言われて、最初はえーって思いました。まあええか…とりあえず行こかと思って行ったんです。

D×Pスタッフ:朝から働いていたんだね。なんの仕事してたの?

Kくん:印刷会社でした。卒業と同時に辞めたんですが、その後倒産して。ちょっとショックですね。僕の部署は、お母さんみたいなおばちゃんに囲まれて。仕事していて良かったです。

D×Pスタッフ:Kくんの周りの人はいい人が多いね。

Kくん:そうなんです、周りの人に恵まれてて。高校2年のときは、卒業後は就職するとずっと決めてて。でも、だれがきっかけなんやろ…?多分、D×Pの人やと思うんですが、給付型の奨学金もあるよって言われて。

高校生と一緒にクレッシェンド参加する社会人・大学生ボランティア(コンポーザー)は、多様な価値観やバックグラウンドをもつ大人たちです。そのなかでKくんと同じグループになった人がいました。

D×Pスタッフ:バイクの話で盛り上がってた人がいたって、聞いたよ。

Kくん:最初は「玉ねぎってうまいよな」って話をしてたんです。それで、淡路島(玉ねぎの産地)の玉ねぎはうまいって話になって。

「そんじゃあ、食べに行こうぜ。僕はバイクなんですが大丈夫ですか?」と言ったら、「じゃあ、俺もバイクの免許とるわ」って。そう言ってたんですが…彼はとってくれなかったですね(笑)。高校を卒業して、一度飯食いに行きました。いまは就職して、忙しいみたいです。

クレッシェンドは、高校生が人とつながる場を教室の中につくり、一人ひとりに寄り添いながら関係性を築きます。社会人・大学生ボランティアである大人「コンポーザー」と高校生の対話を軸としたプログラムです。

D×Pスタッフ:D×Pの社会人・大学生ボランティアの大人(コンポーザー)は、どんな人だと思う?

Kくん:一言でいうと、変ですね(笑)

まあ、正常な人なんていないですけどね。結局みんな変なんですよ、僕も変ですし。

D×Pスタッフ:職員の川上(Kくんにインタビューしてみない?と紹介してくれた職員)とはいつ出会ったの?

Kくん:川上さんは、クレッシェンドの時ですね。一番関わったのは、クレッシェンドで出会ったボランティアの大人(コンポーザー)と淡路島に行くにあたって連絡先を交換したいという話になったときですね。

D×Pスタッフ:あ、さっきの玉ねぎの話。

Kくん:高校生だったので、連絡先を交換するなら学校やD×Pの許可が必要だったんですよね。そこで初めて関わりました。卒業してから、川上さんともコーヒーを飲みに行ったりしましたよ。

D×Pスタッフ:川上は、どんな人?

Kくん:変な人。でも、何回か相談乗ってもらったりして。まあ、正常な人なんていないですけどね。結局みんな変なんですよ、僕も変ですし。

父親が死んでからが、僕の人生かなと思ってるんです。

さまざまな出来事を切れ目なく、でもそのひとつひとつを丁寧に話す彼はどんなことを考えているのでしょうか?過去に触れたあと、彼が『これから』をどう考えているのかを知りたくなりました。

D×Pスタッフ:卒業後は、どんなふうになるの?

Kくん:社会福祉士は、学校に4年通わないといけないんです。今の短大で2年間勉強をして、2年実務経験したら、介護福祉主事っていうのになれるんです。それも社会福祉の仕事なんですが、そのまま働いて金稼ぐか、4年生の大学に3年生から編入するか。ぶっちゃけ、お金次第ですね。編入なら、指定校推薦になるので「めちゃくちゃ安くいけるよ」って先生は言ってたけど、ちょっと悩んでいるところです。

D×Pスタッフ:これから先、どんなふうに生きていきたいとか考えていることはある?

Kくん:とりあえず、お金が欲しい。お金がないと始まらないと思うので。心に余裕がなくなるというか、お金に困りたくないですね。お金ないからやめようってなりたくない。

D×Pスタッフ:いくらもってたら安心できるの?

Kくん:あればあるほどいいんですが…500万ぐらい貯金が欲しいです。家には、貯金もないし。父親は、障害があるんです。だから、責任感というか焦燥感というか。父親は、いま一人暮らしで、物忘れが酷くなってきて。喋る機会は増やしているつもりなんですが、それもあって。

僕がめっちゃ思っているのは、父親が死んでからが、僕の人生かなと。いや、福祉いくって決めたし、いまも僕の人生を歩んでいるんですけど。高校卒業したら、働くって決めていたのも、父親のためだったので。父親が第一。だから、父親が死んでからやなって思うんです。

D×Pスタッフ:自分の人生を歩み出すころに、どうしていたいとかはある?

Kくん:職業は、社会福祉士。何したいとか、あんまないですね。結婚願望は正直ないし、一人でいるの楽しいし。

バイクとか、したいことをしてると思います。でも、その頃には車もかも。だから、僕まだ免許はとってないんですよ(笑)。山を走るバイクが好きで、車の免許とったら、ハイエースとか乗って、バイク積んで走りにいくと思うので。


彼が出会った人に思いを馳せたとき、「たくさんの人との出会いの上で私たちは生きている。」ということを考えました。私たちは、気づかないうちにも、他者を支えたり、支えられたりしているのかもしれません。

また会いたいなと思える人や道をそっと示してくれる人、気にかけてくれる人、同じ場を共有し居心地よく過ごせる人、存在を認めてくれる人…。

そんな、社会のあちこちに散らばる「人とのつながり」を紡ぎ、価値観として地道に広げ続ければ、様々な境遇にあるひとりひとりの若者が「まあ、これからも大丈夫かも」と思えるような希望をもてる社会が実現できるのだと思います。

D×P(ディーピー)は、10代の孤立を防ぐNPOです。

「10代の孤立」は、不登校・中退・家庭内不和・経済的困難・いじめ・虐待・進路未定・無業などによって、
いくつかの安心できる場や所属先を失ったときに起こります。

D×Pは、定時制高校でのオフラインの取り組みとLINE相談などのオンラインの取り組みをかけ合わせ、10代がつながりを持てるセーフティネットをつくっています。

あなたも「寄付」を通じて、この取り組みに参加しませんか?

これらの取り組みは全て、D×Pに共感してくださる方の寄付で運営しているんです。よかったら、あなたも「寄付」を通じて、この取り組みに参加しませんか?


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