「“生徒のために何かする”じゃなくて、 ほんまに遊びに行くみたいな感覚で」コンポーザーインタビュー : 北井祐子さん
通信制・定時制高校の高校生に人とのつながりをつくる授業(クレッシェンド)を届けているD×P(ディーピー)。授業のなかで高校生と対話するボランティアがコンポーザーです。不登校経験がある方、いろんな仕事を経験している方、家庭がしんどかった方、世界一周した方、ずっと悩みながら生きているという方など、職業も経験も背景も様々な方が参加してくださっています。
コンポーザーとは?
20歳~45歳の経験も背景もバラバラな大人たち。高校生に何かを教える立場ではなく、否定せず関わることを大切にしています。compose(コンポーズ)は、『構成する』という意味をもつ言葉です。コンポーザーとは、D×Pの取り組みに参加し、プログラムを一緒につくるメンバーという意味を込めています。
今回は、グラフィックデザイナーとして働きながら、 通信制・定時制高校での数多くの授業に参加してくれた北井祐子さんにお話を伺いました。
これまで教育の勉強なんてしたことはなかったけど、世代の違う子たちと話してみたいなと思いました。
D×Pスタッフ:早速ですが、コンポーザーになろうと思ったきっかけを教えてください。
北井さん:D×Pを知ったきっかけは、覚えていないぐらい些細なものでした。ネットでたまたまD×Pを見つけて、「大阪でこんな団体があるんだ」と思って、とりあえず話を聞きに行こうと思ったんです。ちょうどその時期に別の団体でプロボノ※を始めたばかりで、当時は会社以外の場所でも自分の持っている技術や経験を生かしたり、横のつながりをつくりたいと思っていました。
※プロボノとは:様々な分野の専門家が、職業上で持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティアのこと。大阪ではNPO法人サービスグラントを通じてプロボノを経験されている方が多いです。
D×Pスタッフ:色んな団体があるなかで、なぜD×Pで活動しようと思われたんですか?
北井さん:D×Pを知ったきっかけは、覚えていないぐらい些細なものでした。ネットでたまたまD×Pを見つけて、「大阪でこんな団体があるんだ」と思って、とりあえず話を聞きに行こうと思ったんです。ちょうどその時期に別の団体でプロボノ※を始めたばかりで、当時は会社以外の場所でも自分の持っている技術や経験を生かしたり、横のつながりをつくりたいと思っていました。なんか良さそう、みたいな(笑)
直感で決めた部分もあるし、とりあえず説明会に行こうと思って。D×P(ディーピー)のホームページを見た時に、たまたま代表の今井さんの写真を見て、その瞳が輝いていたので「めっちゃかっこいいな」と思ったんです。変な団体ではなさそうだと思ったし、話だけでも聞いてみようと思いました。
私はこれまで教育の勉強なんてしたことはなかったし、高校生や若い学生と接したこともあまりなかったんですけど、世代の違う子たちと話してみたいなと思いました。自分も大学を1回生で中退せざるを得なくなり、その後専門学校に行っていたので、そんな境遇や経験も何か高校生の参考になるかなと思いました。最初はすごく気軽な感じでしたね。
D×Pスタッフ:初めて参加されたクレッシェンドで、印象に残っている高校生はいますか?
北井さん:そうですね、みんな印象的と言えば印象的なんですけど。
第4期(2013年4〜7月)の授業で関わった生徒で、ちょっと気になっていた子がいたんですが、次の年(2014年)のゴールデンウィークに開催されたアート展で、書道の作品を出していたんです。授業で関わっていたコンポーザーみんなでその展示を見に行ったんですが、私にはその子の顔つきがとても変わってすごく明るくなっていたように見えて、嬉しかったです。
授業で出会った頃は何を聞いても「うーん…」という反応だったように見えました。話しかけたら返事はしてくれるし、笑顔を向けてはくれるんですが、「何を考えているんだろうな、授業は楽しんでくれてるのかな…」と思っていました。書道のことも以前は続けていたけど色々あって辞めたとのことだったので、特に書道の話には触れずにいたんです。でもある時、クレシェンドの中で本人から「書道をしてた」って教えてくれたんです。その後はなんだかんだ書道の話が出るようになって、1年後にはアート展で書道の作品まで出していて…。
そんな彼女の歩みの一瞬だけにでも、自分が一緒に過ごせたことが嬉しくて、それは本当に良かったです。アート展に行って泣きそうになりました(笑)
D×Pスタッフ:クレッシェンドの授業を通して、祐子さん自身が何か変わったことはありましたか?生徒との関わり方とか。
北井さん:とても変わったと思います。授業に参加するまではすごく緊張してて、「生徒のために何かしてあげないと!」という気持ちがすごくありました。でも1回目の授業に行っただけで、教えるという感覚ではなく、自分もいち参加者として授業に来るというか、ほんまに遊びに行くみたいな感覚でいいのかなって思い直しました。
D×Pの基本3姿勢とは「否定しない 」「年上/年下から学ぶ 」「様々なバックグラウンドから学ぶ」の3つ(2016年3月当時)
2019年度より、これまで大切にしてきた姿勢を受け継ぎながら「否定せず関わる」「ひとりひとりと向き合い、学ぶ」の2つにアップデートされています。
10代と関わるときに大切にしている姿勢
「否定せず関わる」「ひとりひとりと向き合い、学ぶ」の2つの姿勢です。あらゆる可能性を見つめ潰さずに、ひとりひとりと対話するために、
わたしたちはこの姿勢を大切にして10代と関わっています
みんなで真面目な話もくだらない話もできるし、一緒にいて楽しい人が多い
D×Pスタッフ: 一緒に授業をしていた中で、印象的なコンポーザーさんはいましたか?
北井さん:なんだろう。でも今回一緒に入ったコンポーザーさんは、みんな熱かった・・・(笑)その中に、過去にもコンポーザーを2、3回経験している人がいたんですが、「その人がいるクラスは必ず良くなる」っていうジンクスがあったくらいで。
最初ってみんなすごく緊張していると思うけど、1回目の授業後に「せっかくやからご飯に行こう」という話になるようなメンバーで、そういうノリがあったからすぐ打ち解けました。表立っては見せないけど、さりげなく気遣ってくれる人たちだったので、緊張感がほぐれました。
コンポーザーさんの1人が、クラスで全然喋れなかった子の横に率先して居てくれて、ずっと話をしていたんですね。生徒の反応がなくてもさりげなく話しかけていて、その気遣いには感心しました。その子は、授業の中で目に見えて変化があったわけではないのですが、最後の授業の時に、遅刻したけどちゃんと教室に来てくれたんです。それは私まですごく嬉しくなりました。普通って遅刻したら教室なんて入りにくいじゃないですか。雰囲気がもうできているし。だけどそんな中でも来てくれたのがすごく嬉しくって、最後手紙を交換する時間に、「来てくれてありがとう!」って何度も言った記憶があります(笑)
北井さん:あと、個人的には、純粋に他のコンポーザーさんと会えるというのが嬉しいです。社会人になると、会社以外で年の近い人と会ったり、大学生と出会う場ってほとんどないんですよね。こういう場に集まる人達だから、根底の考え方や価値観が似ている人も多いですが、考え方が違う人にも出会える。みんなで真面目な話もくだらない話もできるし、一緒にいて楽しい人が多いんですよ。生徒に会う目的もあるんだけど、他のコンポーザーさんたちに会いたくて参加するという理由もありますね。
D×Pスタッフ:初めてのクレッシェンドを終えた後に、また参加しようと思われたのはどうしてですか?
北井さん:4回の授業プログラムを終えた後、自分の中に「もっとこうしたら良かった、こうやって生徒に関わればよかった…」とか反省が出てきて、もう少しできることがあるんじゃないかと思ったからだと思います。クラスによって全然雰囲気が違うとも聞いていたので他のクラスはどんな感じなんやろ?って興味もあったし。周りのコンポーザーさんも「もう1回コンポーザーをやりたい」という方が多かったんで、みんながやるなら私もやろうかな、と思ったのもありますね。
D×Pスタッフ:他のコンポーザーさんとほんとに仲良くなられたんですね。
北井さん:最初の授業からコンポーザー同士で仲良くなれたのと、スタッフの雰囲気もいつも和気あいあいとしていてこちらもすごく安心できる場だったので、嬉しかったというか…それがあったからずっと続けているんだろうなと思います。
みんなでごはんを食べに行ったりもしてたんですけど、授業の話だけじゃなく、色々な話をしてました。くだらない話とか、仕事の話とか(笑)真剣な話3割、あとの7割がみんなの話くらいの割合でしたね。
「ユメってこういうことでもいいんや!」って言ってくれたのが嬉しくって。
D×Pスタッフ:コンポーザーをやる中での苦労や、大変だったところはありましたか?…というか、たくさんあったと思うのですが(汗)
北井さん:個人的には、男の子と話すのが難しかったです。自分も女性なので、女の子であれば、たぶん自分の好きな話題に触れられると嬉しいだろうなと思って、「その服可愛いなぁ」とか話題を広げたりできるんですけど、男の子は聞いても、「うん、はい」で終わってしまうんですね。そこは今も難しいんですけど…。生徒と一緒に好きなことを見つけて、引き出していけるようになりたいなと思います。
D×Pスタッフ:好きなことを引き出す時に気をつけていることってありますか?
北井さん:生徒さんの中には、「こんなこと言ったら笑われるだろう、恥ずかしい」っていう気持ちが強い子もいると思います。例えば「寝るのが好き」って思っていても、それだけを伝えるとすごく怠惰な人だと思われるかもしれないと考えると話せなくなってしまったりとか。そういう緊張感がないような環境づくりは意識しています。
あとは「どんなことも否定しない」ことですね。「それいいじゃん!」と、どんなことでも共感するっていうことは意識していましたね。
ユメブレストの時に、「俺なんにもユメないし」っていう生徒がいました。私はその時、隣にいたんですが「小さいことでもいいし、やりたいこととか行ってみたいところとかない?」って聞いたら「東京に行ってみたい」って言って、東京タワーの絵を書いてくれました。ちょうどその時スカイツリーができた時期だったので「東京タワーとスカイツリー、どっちが好き?」っていう話題で盛り上がったんです。
ユメブレストとは、それぞれの「ユメ」をクレヨンで画用紙に描き、発表するワーク。 D×Pでは「ユメ」の定義を 「ちょっと好きなこと、やってみたいことも、全部ユメである」としている。「将来こんな仕事がしたい ! 」といった大きな目標から、「こんなところに行ってみたい」というようなやりたいこともどれも「ユメ」です。
北井さん:その時に生徒が、「ユメってこういうことでもいいんや!」って言ってくれたのが、嬉しくって。私の場合はこだわりが強い人間だったので、気づいた時にはやりたいことが明確になっていました。でも多くの人はそうじゃないかもしれない。普通の学校生活の中で、「自分の好きなことは何だろう?」なんてあんまり考えないのではないかなと思いました。でもそれって、好きなことがないんじゃなくて、知らないだけだと思うんです。
私は、普段の生活で出会う些細なことが自分の大きなユメに繋がっていたなと思う。私の経験をこれからも生徒に伝えていきたいなと思います。
D×Pスタッフ:「こんな人がコンポーザーになったらいいな」というイメージはありますか?
北井さん:基本はどんな人でもいいと思うんです。生徒にとってみれば、先生以外の大人と話せる機会自体が貴重だと思うし、「いろんな大人を知るという機会を得ること」がクレシェンドの目的だと思います。だからこそ、色んな人が来たらいいのかなあと思います。
D×Pスタッフ:最後に、これからコンポーザーをしようと思う人に伝えたいことはありますか?
北井さん:あまり難しいことを考えなくても、年の離れた子たちと他愛ない話をするだけで、色々なことを発見できるし、自分にとって当たり前だったことが高校生にとっては全然当たり前じゃなかったりとか、視点の違いを知ることもできる。それが新鮮でした。その視点の違いを話題にするのも面白いし、高校生と接する機会なんて、先生などの仕事をしていないと関わる機会がないので、ぜひ楽しく参加してもらいたいなと思います。