飛行機4時間で出会った見たことのない世界。生きる力をなくしていた彼女の現在地。
「スタディツアーって言われているけど『ツアー』っていうぐらいだから、正直遊び感覚だった。」
と笑う彼女は、明るく元気な女の子。もうすぐ20歳。バイトを二つ掛け持ちしながら、忙しく毎日過ごしているそうです。
このインタビューの日も、朝7時から13時までのバイトの後、電車に1時間ほど乗って大阪天満橋のD×P事務所までやってきてくれました。
インタビューのなかで話してくれたのは、こんな彼女の様子から伺えないような過去。
学校にもいけない。高校2年生、新学期が始まって新しい友達もできたばかり。「どうしたの?」って聞いてくれる友達にも連絡を返すこともできない。
心配してくれていた友達とも、次第に溝ができていってしまったのだそうです。学校に行っても、ひとり。面白くもない。誰にも話せないし、話したくない。そんな日が続きました。
でも、確かに「自分が、変わらなきゃいけない」という気持ちはあって。
それを聞いて、もしかしたら自分が変われるチャンスかなぁ…と思って、チャレンジしてみようと思いました。
2017年、2月27日から3月10日までの約2週間の12日。少しの期待を持って、飛び出した日本、いつもの日常。
朝は、早く起きてスケジュールも詰め詰め。半ば強制的に変わる生活の中で目にしたものとは…?
株式会社ココウェルとNPO法人D×P(ディーピー)が主催するココファンドプロジェクト。寄付付き商品の売り上げで高校生をフィリピンのスタディツアーに送り出しています。今回は、2017年の2月から3月にかけての2週間のツアーに参加したかなさんにインタビューしました。フィリピンの現状を見て感じたこと、1年経った今思うことなどを聞きました。
たった4時間、飛行機に乗っただけで見たことない世界
D×Pスタッフ:スタディツアーに参加が決まった時はどんな気持ちだったの?
かなさん:正直、スタディ『ツアー』って言われてるぐらいだから、勉強ってイメージをあまり持ってなくて。「みんな、遊び感覚で行ってるんかなぁ」って思っていました。
今まで、海外は行ったことあるんですけど…。海外は、すごいきれいなビルとかきれいな街とか…そういうイメージしかなくて。フィリピンもセブ島とかそういうきれいなイメージがあって。
でも、行ってみたら…たった4時間、飛行機に乗っただけで見たことない世界があって。それにまず衝撃をうけました。
かなさん:ホテル…いや、宿舎…ホテルっていう人もいるんですけど、宿舎が正しいですね(笑)。
2段ベッドが二つにトイレとお風呂がある部屋で、他の参加者と一緒に4人で過ごしました。トイレの紙も流れへんし、「ええー!!!!」って感じで(笑)。
D×Pスタッフ:ちなみに、フィリピンには興味あった?
かなさん:まったくなかったです。どちらかといえば、アジア系じゃなくてアメリカとか…
D×Pスタッフ:パリとかイタリアとか…?
かなさん:…そうですね(笑)。
小学校の時の道徳の時間に「世界には貧困の子たちがいっぱいます。」という話を聞いて、世界って同じ時間を過ごしているのに平等じゃないっていうのを感じたことがあったんです。この時間にも誰かが困っているのかなって思っていました。
私は、今学校に行っていない。学校に行けるだけでありがたいことなのに。フィリピンの人たちは、行きたくても学校に行けてないっていう現状を「事前学習会」で知って。もしかしたらそのありがたみがわかるかもしれないなって。このスタディツアーでは、自分の目でフィリピンの現状を確かめようと思って参加しました。
食べるゴミのことを「パグパグ」というんです。それもとても衝撃的でした。
D×Pスタッフ:現地の人とも交流をしたの?
かなさん:貧困地区と言われるペレーズでホームステイしたり、トンド地区などに行きました。
トンドでは、ゴミが大量に山積みになってあるんです。ゴミを拾って、そのなかでお金になりそうなものを売って生活している人がいたり、ファーストフード店から出たゴミを調理しなおして食べてる人がいたり…。その食べるゴミのことを「パグパグ」というんです。それもとても衝撃的でした。
かなさん:ペレーズでホームステイをしたときに、そこのお母さんが、「いつか日本に行ってみたい」って言ってくれて。そのときは、ぜひ泊まりに来て欲しいな!って思いました。でも、そのお母さんたちは金銭的にも、現状としてもそれができない。私たちはすぐに行動に移せるのに…なんとかしたい、何か私にできることはないか?と思いました。
そんな現状があるけれど、そのペレーズで暮らす人々は、そんな状況でもひとつも暗い顔を見せずにずっと笑顔で、私にも話しかけてくれたりして。それにも衝撃をうけました。
「日本人は笑顔が少ない。」というフィリピンのお母さんの言葉
かなさん:そして、その人たちは、「日本人は笑顔が少ない。私たちは、しんどい状態でも笑ってたら良いことがあると思う」って言っていて。周りの人の温かさとかも感じて、わたしももっとがんばらなきゃって思ったんです。
D×Pスタッフ:日本とは、あまりに違う環境だったんだね。
かなさん:日本は、働ける手段や選択肢はたくさんあると思います。でも、フィリピンの人たちには選択肢はないし、仕事も少ない。ゴミを売ってお金にしたり、ココナッツ農家とか、漁業とか。ココナッツや魚介が取れなかったら、お金は得ることができない。だから貧困と言われているのかなって思いました。
この現実を目の当たりにして。「ペレーズは、貧困貧困ではないか?」という問い
D×Pスタッフ:スタディツアーでは、他の参加者とディスカッションをするプログラムも多かったんだよね?
かなさん:そうなんです。その「ディスカッション」という言葉も、私はそのときに初めて聞いて(笑)。
高校では、班になって話し合っても感想が「よかった」とか一言だけっていうことがよくあって。スタディツアーの参加者の大学生と話し合ったときに、同じように話を聞いていたこの一瞬でこんなにたくさんの意見が出てくるってすごいなってびっくりしました。
D×Pスタッフ:印象に残っているディスカッションはある?
かなさん:印象に残っているのは、「ペレーズは、貧困か貧困ではないか」っていうディスカッションをしたんです。世界的には貧困地区といわれているんですが…。
D×Pスタッフ:すごく、難しいね。
かなさん:そう、すごく難しかったんです。私は貧困と答えたんですよ。物々交換をしてるし欲しいものも買えないから。
そしたら、ある男の子が「わからない。」と答えて。 ペレーズは、「貧」かもしれないけど「困」ではない。物々交換とかをして、ものは手に入れることができる、なによりみんな笑顔だし。確かに貧しいけれど、困ってない と。
「もっといろんな意見が出したい。」という思いに動かされ、想像もしていなかった自分へ。
D×Pスタッフ:そんな考え方があるんだね…!
かなさん:私にはこんな考え方ができなくて、驚きました。もっと、いろんな意見を出したい。私もがんばろうと思って。
そんなきっかけで、次回のスタディツアーはリーダーとして参加するんです。スタディツアーは参加者が3つの班に分かれて活動するんですが、その3つの班のそれぞれに一人リーダーがつきます。今は、次のツアーに向けて、フィリピンの歴史についてもっと学んだりしています。参加者の人たちに質問されたときに私たちが答えられなかったらいけないから。答えられるように頭に叩き込んで。
D×Pスタッフ:1年後、そんなことをしているって想像してた?
かなさん:もう、全く想像してなかったですね。ここまでほんとに変わるっていうのが信じられないです。明日の自分もわからないぐらいだったのに。
リーダーとかも率先してするタイプとかじゃなくて。学生の時は、絶対やらなかったと思います。今回、声をかけてもらった時にも「私、絶対無理!」って思ったんですけど…。でもこんなチャンスってもう二度とないかもしれないって思って。この先、就職とか未来に役立つかもしれないと思ったのでやることを決めました。
D×Pスタッフ:そうなんだね。就職とか未来、どんな自分になりたいというのは、ぼんやりとでもあったりする?
かなさん:まだ、あんまり決まっていないんですが、困ってる人たちを助けられる仕事をしたいなと思います。
かなさん、インタビューありがとうございました!
正直、この記事を仕上げるのに、少し迷いました。冒頭に彼女が事件の被害にあったことを書いてしまうと、「辛い経験のあった女の子がスタディツアーに行って変わった」みたいに美談で終わってしまうのではないか…と。
でも、インタビューをしながらも戸惑ってしまった私に彼女はこう伝えてくれました。
だから、この文章は私の決意です。
彼女のことばが、様々な辛い思いを抱える高校生に届きますように。
そして、
周りの人たちと関われず一歩踏み出すことが難しくなってしまった高校生が、フィリピンへと向かうきっかけになりますように。
インタビュー/文責:磯みずほ(当時D×P広報インターン)/イメージイラスト:藤井里名(当時企画運営インターン)