現場のストレスが少しでも減れば。組織を強くする「サポートをする人のサポート」のお仕事
「現場では毎日のように何かしら起きています。本当に、お疲れ様です、と思いますね」
より多くの若者たちにスムーズなサポートを届けるためにシステムと業務プロセスの改善に取り組むD×Pスタッフのさとみっちさん。若者のSOSに直接対応する相談員に対して、労いとリスペクトを語ります。
ユキサキチャット登録者数も伸び続けるなか(累計登録者数は15,000人)、業務の効率化は必須である一方で、省いてはいけない、省きたくないプロセスも存在します。矛盾と向き合いながらも最適な形を模索するさとみっちさんが気をつけていること、大事にしていることは?
D×Pで働く人の日常や本音を映す「スタッフインタビュー」の第7回目となる今回は、若者をサポートするスタッフをサポートする、後方支援の現場に目を向けてみました。
「ビジネスの勉強会」でD×Pと出会う
──さとみっちさんがD×Pで働かれるようになって、2年ほどになりますね。一緒にお仕事をする前から、D×Pのことはご存じだったんですか?
もう6〜7年前になると思うんですが、私が受講生だったビジネスの勉強会に、代表の今井さんが登壇者として来ていたんです。私は当時、個人事業主で、プログラマーとして開発の仕事をしていて、システム開発の仕様につながる部分のビジネスの勉強もしようかな、ということで参加していました。
起業とか経営とか、ビジネスに関連するテーマのなかで「NPO」を取り上げた回があって、今井さんはそこに出られてました。D×Pが取り組んでいる「若者の孤立」などの問題についての説明もしつつ、全体的には経営や組織運営に関する具体的なお話が多かったです。
その日は今井さんだけでなく、他のNPOの人たちの話も聞いていたのですが、「こんな世界もあるんだ」とかなり衝撃を受けました。というのも、私自身が幸いにも貧困とは無縁でしたし──学生の頃は貧乏でしたが──周りにもそういう人がいない環境で育ってきたんです。だから、「ご飯が食べられない子どもたちがいる」というのを聞いて、日本でそんなことがあるんだ、と。「日本は恵まれた国」だと思っている人は多いと思うのですが、私もそのうちのひとりでした。
それで、SNSをフォローしたり寄付したり、ということを始めたんです。それまで、寄付したことなんてほとんどなかったですよ。
組織が大きくなると必ず直面する、業務フローの見直し
──そこから、D×Pに応募するに至ったのは?
2年くらい前に「社内SE/コーポレートIT担当募集」というD×Pの求人を見かけて、システム屋の自分ができることがマッチングしている! と思い応募しました。それまでも、NPOなど市民セクターでのお仕事に興味がないわけではなかったのですが、あまりシステムに関する求人を見かけたことがなかったんです。
やはり、ITまわりの改善に手をかける余裕があるNPOさんは少ないと思うんですよね。これはNPOに限らず、中小企業さんもそうだと思います。
──NPOで働く、ということへのハードルは感じませんでしたか?
私の場合は、全くありませんでした。営利でも非営利でも、その組織が何をしているのか、そこに自分は共感できるか、というのが大事なポイントだと思っています。
──現在のお仕事の内容を教えてください。
いまは業務委託の立場で、D×Pの食糧支援、現金給付、若者たちが安心して過ごせたり相談ができたりする居場所「ユースセンター」に関わる事業などのさまざまな業務フローを見ています。そのなかで、効率化できる部分はシステム化していくお仕事です。
他の企業さんでも、例えば最初はexcelとかで顧客管理をしていくと思うんですが、だんだん管理する数が増えたり、付属情報が増えていったりするにつれて煩雑になってきますよね。組織が大きくなると、必ず直面する問題です。
なので、複雑な情報へのアクセスをスムーズにしたり、作業を簡単にしたりするために、システムを改善していきます。システムが変わると業務が変わりますし、業務が変わるとシステムが変わるので、それらを相互に見ています。
「サポートをする人のサポート」に徹する
──お仕事をする上で、どんなことに気をつけていますか?
D×Pは、業務の柔軟性がすごく高いんですよね。現場ではいろんなことが起きるので、それに応じてどう対応するか、どうチーム内でコミュニケーションを取るか、フォローするか、皆さんが都度考えながら柔軟に仕事をする様子を見てきました。
一方で、私の仕事である業務の効率化やシステムづくりは、やることを「固定」していくことでもあります。その矛盾が、私が一番最初にすごく悩んだ部分でした。その柔軟性を極力壊したくなかったんです。
だから、大事なのは私がどれだけ皆さんの業務を理解するかということ。ユキサキチャット、ユースセンター、SE/ITチーム、いろいろな部門とやりとりしますが、それぞれの担当者の方とコミュニケーションをしっかり取ることを意識しています。
──さとみっちさんのお仕事は、現場で働くスタッフの、いわゆる後方支援にあたると思います。「若者の孤立」という社会課題を、さとみっちさんはいまの立場からどんな風にご覧になっていますか。
システム屋の目線からD×Pがサポートをしている若者たちを見ていると、社会の仕組みと仕組みの隙間に落ちてしまった人たちだと感じます。社会保障のどの制度にも該当せず、たらい回しにされてしまうパターンもある。
ただ、私の役割は「サポートをする人のサポート」なので、意識してそれに徹するようにしています。ユキサキチャットに寄せられるさまざま相談者さんの声や、ユースセンターでサポートしている利用者さんの状況を、文字情報としてはもちろん頭のなかに入れます。でも、私の仕事はそれに寄り添い、サポートする相談員の人たちがどうすれば動きやすいかを考え抜くことなんですよね。
NPOへのイメージが変わった
──「サポートをする人のサポート」ですか。「ケアする人のケアは誰がするのか問題」は、D×Pタイムズ編集部でもよく話題になります。
D×Pの目的は若者をサポートすること。相談を寄せてくださる方が大変なのはもちろんのこと、私はそれを支える人たちのことも心配しています。やっぱり、現場では毎日のように何かしら起きていますから。本当に、お疲れ様です、と思っています。
私は些細なことしかできないのですが、微力ながら皆さんの業務の負担が少しでも減るように、欲しい情報がすぐ出てくるように検索しやすくしたり、データを入力しやすくしたり、という方法で力添えをしています。パソコンに触れるときのストレスが軽減されて、必要な業務に集中してもらえたら、本当に満足です。
──D×Pで働くようになって、新しく発見したことや、気づいたことはありますか?
NPOへのイメージが変わったと思います。それまで、NPOって、ボランティアが基盤となったこぢんまりしたものを想像していたんです。でも、D×Pはしっかりした「組織」で、今井さんをはじめ、経営層のみなさんがいかに組織運営に力を入れているかがわかります。
初めてお会いしたビジネスの勉強会でも、「非営利でも、職員の給与をしっかり払いたいし、利益を出してもいい」などとお話されていたことが思い起こされます。
社会の仕組みを変えるのは無理かもしれないけれど
──さとみっちさんは、NPOへの入り口が「ビジネス」だったのが面白いですね。
そうですね。もし、あれが「NPOのイベント」「社会課題について考えるイベント」とかだったら、当時の私は参加してなかったと思います。
──一緒に社会課題に取り組んでいく仲間を増やすためには、切り口をたくさん変えてみるというアプローチが大事なのかもしれません。
仲間を増やすのは、難しいですよね。D×Pは若者のサポートのために特化した組織ですが、そういう組織だけが頑張るのではなく、地域のご近所付き合いや学校の周辺などで、ひとりひとりが助け合える社会だったらもっとみんなが生きやすくなるのに、と思うことがあります。
D×Pの相談員レベルになると高い専門性が求められますが、例えば「サブ相談員」みたいな人たちが増えたらいいなと思っています。電車で困っている人にちょっと声をかけるくらいだったら、みんなにできますよね。
いま、そういうおせっかいを焼いたり焼かれたりすることにみんなが慣れていない、というのはあると思うんです。おせっかいを焼きにくい世のなかになってしまったというか。でも、大きな社会の仕組みを変えるのは無理でも、自分の意識は変えられるはず。そういうところから変化が始まるといいですよね。
聞き手・執筆:清藤千秋・南麻理江(株式会社湯気)/編集:熊井かおり
クラウドファンディング実施中!
続く物価高。今秋にかけても値上げラッシュが発生するなか、その影響を大きく受けるのは、親に頼ることができず、困窮する若者たちです。年末年始は困窮する若者たちにとって孤立を深める期間です。D×Pでは全国の若者への食糧支援を提供するため5,000万円を目標に、12月20日までクラウドファンディングを実施しています。ぜひ応援や記事のシェアなどをお願いいたします。