「食べるものは、生きる『糧』になる」。一度は諦めた「社会課題解決」に携わる理由
世界で起きている紛争や、政治の問題、物価高。暗いニュースに押しつぶされそうになる日々。絶望を感じ、塞ぎ込んでしまう人も多いかもしれません。
しかし、D×Pで働くあがさんは、職場で社会課題の解決のために行動する多くのスタッフと接することで「希望」を受け取っているといいます。
「社会のために『なんとかしたい』という思いでポジティブに働いている人たちがこんなにもたくさんいる」「それを知ってほしい」
D×Pで働く人の日常や本音を映す「スタッフインタビュー」の第6回目。今回は、LINE相談サービス「ユキサキチャット」の事業部で食糧や現金を届ける仕事に従事するあがさんにお話を伺いました。
社会課題に関心を持つも、無力感に苛まれた学生時代
──あがさんは、D×Pに来る以前から社会課題に関心を持っていたのですか? どんなことに興味を持っていたのか、教えてください。
さかのぼると、高校生のときに「アラブの春」という中東の民主化運動に影響を受けたことを思い出します。ニュースで死者数がどんどん増えていくのを見て、なぜこんなことになっているんだろう、なぜ止められないんだろうと不思議でした。
戦争というと「昔の話」だと思っていましたが、同時代に世界で実際に起きているのか、と興味を持ち、大学は中東を専門に研究することにしました。
ちょうど、イスラム過激派の「イスラム国」が話題になった時期でもありました。当時、SNSでショッキングな情報がどんどん流れてきて、本当に辛かったですね。多くの人が自分が住んでいた土地を追われ、難民となって海を渡りヨーロッパを目指すのですが、粗悪なボートを使わざるを得ず、多くの命が奪われていました。難民はいまでも変わらず大きな社会課題です。
この世界には、生まれた場所が違うだけで、命の危機に直面し満足に食事ができない人たちがいる。なんとかしたい、と思いつつ、勉強するにつれどんどん「個人の力ではどうしようもない」と無力感が強くなっていったんです。そして、大学を卒業する頃にはかなり「諦めモード」になっていました。
自分のやることにも、ちょっとは意味があるかもしれない
変化が起きたのは、社会人になり、結婚して、子どもが生まれてからのことです。人生における時間の価値観が大きく変わったように思います。
それまでは、自分の人生の70年、80年の間でできることを考えていたのですが、子どもが生きる時代のことまで考えると、100年や150年というスパンになってきますよね。そこまでの時間軸に責任を持たなければ、と思ったし、100年や150年というスパンだったら、自分のやることもちょっとは意味があるのかな、と思えてきて。スイッチが切り替わったような感じでした。
いままでは広く大きな問題を前に途方に暮れていましたが、まずは自分の身の回りの人たちのために、ご飯が食べられて、屋根のあるところで過ごせる生活のために力になりたいなと感じたんです。誰だってそういう生活を送る権利は持ってるよな、って。
そういう気持ちがいろいろ重なって、「食」という生きるために必要不可欠なものに携わりたいと、有機野菜の流通の会社に入社したんです。それがD×Pの前職の話です。
──衣食住への関心が高かったんですね。
やっぱりそこが一番大きかったです。特に、満足にご飯が食べられないって、誰がどう考えてもよくないことだと思うんです。「そこさえ確保できていれば自分の選びたい人生の道を選べる」という人は、たくさんいるんじゃないかと。
食糧支援と現金給付に関わる一連の仕事を担う
──あがさんとD×Pの出会いのきっかけは?
ある日、代表の今井さんのTwitter(当時)で、「現金給付します」という文言が目に入ってきて、びっくりしたんです。お金って送っていいんだ!みたいな。NPOの支援といえば、フードバンクや子ども宅食、みたいな、現金ではないイメージが強かったのだと思います。
それがずっと頭に残っていて、何年か経ったのですが、ふとD×Pのホームページを見たら食糧支援と現金給付の業務改善を担当するスタッフを募集していました。何かできることがあるかもしれない、と思って、エントリーしました。いま、入社して半年ほどになります。
──あがさんのお仕事内容を教えてください。
所属は、D×Pの「ユキサキチャット事業部」です。13〜25歳の若者を対象に、LINEで相談を受けたり、生活困窮する若者には食糧支援と現金給付を実施しています。
僕の仕事は、相談員に寄せられるチャットの相談内容を集計し、必要な食糧のデータ調整を行ない、箱詰めの作業への指示出しや、作業フローの業務効率化、システム改善なども含めて全体を見ていくもの。食糧と現金にまつわることならなんでも引き受けています。
業務改善も、ただ単にコスト削減や、作業時間の短縮などを目指すのではなく、一見非効率に見えても絶対に守るべきところは守ることも必要です。例えば、アレルギーや苦手な食べ物への対応などのカスタマイズには細かな配慮が必要ですし、いま、食糧発送の際に同封している手書きのお手紙もそうですね。
現金や食糧の給付前には、必ず相談者さんとオンラインで面談をして、どんな支援が最も助けになるか話し合っていきます。現金の場合、最小額が1万円、最大額が8万円と決まっているのですが、8万円の給付に際しても、ご本人の事情に合わせて4万円を2ヶ月に分けて給付する、といった調整もしています。
それらの内容を僕が集計し、経理チームに「この日付で、何件、この額で振り込んでください」と連携していく感じです。
社会をなんとかしたいと動いている人たちが、こんなにもいる
──D×Pで実際に働いてみていかがですか?
本当に大変な状況に置かれている方々が、「食糧が届いてほっとしました」といった感想をチャットで届けてくださることがあります。食べるものは本当に生きる「糧」なんだ、と日々実感しています。
僕はまだD×Pに参加して数ヶ月ですが、さまざまな困難を抱えた相談者さんたちが、親に頼れず、身も心も本当に追い詰められている状況を強く感じているところです。
そういった深刻な状況があるなかで、希望を感じることもたくさんあります。初めてユキサキチャットのケース会議※に参加したときは、相談員が個別のケースに対してどんどん意見を出しあう様子に心を打たれました。ケース会議は、日本全国の福祉の現場でたくさん行なわれていると思うのですが、ひとりの人間のために、これだけたくさんの人が真剣に考えて議論をしているって、純粋にすごいことだなと。
※D×Pのケース会議は毎日2回zoomを使い、相談員が困っていることなどを共有し相談ができる場をつくっている。
あと、D×Pには、D×P以外の場所でも子ども食堂を開くなど、何かしらの社会課題のために活動している人がたくさんいるんです。日々、ニュースで見る情報ばかり受け取っていると、どんどん暗い気持ちになってしまいますが、社会のために「なんとかしたい」という思いでポジティブに働いている人たちがこんなにもたくさんいるんだ、と希望に思えました。それが、D×Pに入ることができて良かった、と思える一番のポイントです。
「つい支えちゃう」「つい声をかけちゃう」という領域を広げたい
──一時期は諦めモードだったというお話もありましたが、希望を見出されたのはとても素晴らしいことですね。
D×Pに入ってから、自分が住んでいる身の回りの地域でも、いろんな人たちの存在が目に入ってくるようになりました。例えば、散髪が苦手な発達障害の子どもたちに向けて、ちょっとずつ慣れてもらうという活動をされてる床屋さんとか。いままでスルーしてしまっていただけで、そういう活動って、ずっとたくさんあるんですよね。
──この記事を読んでくれた人に伝えたいことはありますか?
ポジティブにいろんな活動をしている人たちがすでにいるので、それを知ってほしいですし、多くの人に参加してもらいたいな、と思います。
僕自身、諦めモードだったこともありますし、「自分の力なんて大したことない」と思ってしまう気持ちもすごくわかります。でも、やれることって、意外とあるんですよね。社会で当たり前だと思われていることを疑ってみるのも第一歩だと思います。いろんな参加の方法があると思います。
僕は畑もやってるんですが、そこで育てたジャガイモを消費しきれないので、地元の子ども食堂で使ってもらってるんです。そういう、お金と何かを交換するだけの経済活動じゃなくて、みんなでできるコトやモノを持ち寄って地域で支えていける社会になったら、すごくいいですよね。
子育てをしていると、自分たちの家族だけで完結しようと思ってもできないことが、やっぱりたくさんあるな、と強く感じます。
道を歩いていて、目の前の人がコケそうになったら、誰もが支えるために思わず手が出ると思うんですよ。その状況で、自己責任やろ、とは誰も言わないじゃないですか。そんな感じで、「つい支えちゃう」「つい声をかけちゃう」という領域を広げていくことができないかな、と理想を持っています。
みんなが「コケたら痛そうやな」とか「コケたら立ち上がるの大変かもな」と、自分ごととして考えてみるプロセスが大事だと思います。そういう想像力を持つ人が増えていくと嬉しいですよね。
聞き手・執筆:清藤千秋・南麻理江(株式会社湯気)/編集:熊井かおり
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続く物価高。今秋にかけても値上げラッシュが発生するなか、その影響を大きく受けるのは、親に頼ることができず、困窮する若者たちです。年末年始は困窮する若者たちにとって孤立を深める期間です。食糧の緊急発送が急増する12月まで、あと1ヶ月半。D×Pでは全国の若者への食糧支援を提供するため5,000万円を目標に、12月20日までクラウドファンディングを実施しています。ぜひ応援や記事のシェアなどをお願いいたします。