選択肢を広げる一助になれたら。D×Pのパソコン寄贈プロジェクトが大事にする「まずは使ってみて」の気持ち
いまや、仕事や勉強、生活において不可欠になっているデジタル機器。
最近ではスマホのスペックが上がったことにより、「Z世代のパソコン離れ」「最近の大学生はスマホでレポートを書く」といった声も聞かれますが、中には、パソコンを持ちたくても経済的な事情から手が届かない、という事情を持つ若者もいます。
しっかり調べ物をしたり、データ分析をしたり、論文の体裁にまとめたりと、やっぱりパソコンが必要という場合もあり、パソコンを持っているか否か、が学業や就労の大きな壁となる現状もあります。
そんな「機会の不平等」の問題に挑んでいるのが、D×Pの「パソコン寄贈プロジェクト」です。2018年ごろから続いており、これまで222名の若者にパソコンを届けてきました。
直近の配布は2024年6月〜7月に実施され、、心強いパートナー企業として、株式会社ゲットイットさんにパソコン21台の提供と、当選者選考の協力をいただきました。
2018年のプロジェクト発足から、現在に至るまで、どのような思いで若者にパソコンを寄贈してきたのか。その間、感じてきた社会の空気や変化について、中心メンバーの佐々木、宮崎が語りました。
「パソコンを持っている大人が身の回りにいない」
現在の「パソコン寄贈プロジェクト」は、2018年に実施した「TECH募金プロジェクト」から始まりました。
これは、お金がなくてパソコンを持つことができない高校生に、「MacBookかWindowsのPCを無償で提供する」ことと、「プログラミングを学ぶキャンプに参加できる機会を提供する」という、パソコンと機会の両方を提供する資金を得るためのクラウドファンディングでした。スタッフの佐々木は当時の様子を振り返ります。
「当時は、『どこでも仕事ができる』というポジティブなイメージから、プログラミングへの注目が集まっていた時期でした。実際、僕がD×Pの事業で、高校生の皆さんとお話をしたり、相談に乗る中でも、『プログラミングに興味がある』という声を聞く機会が増えていたんです」
「みなさん、自分が将来の進路を考えていた時のことを思い返してみてほしいんですが、進路って、自分が生きている環境の価値観や、周囲の大人たちの影響を大きく受けることも多いと思います。でもその環境は人によって違い、整っていることもあれば、整っていないこともあります」
「当時D×Pが実施していた事業は通信・定時制高校での事業。ここで出会う子たちの中には、パソコンを持っている大人が身の回りにいない、家にパソコンがないという状況が多かった。実際に触れて体験する機会がないと、そもそも自分に合うかがわかりません」
「自分には向いてない」が分かったら、それでいい
パソコンが家にない場合、学校の図書館やパソコン室などを使い、そこで時間が許す限り作業をすることになります。しかし、そもそもパソコンが必要でも購入できない経済状況の家庭の子たちは、バイトをしないと生活ができないことがほとんど。
学校でパソコン作業をするためにバイト時間を削らざるを得ず、生活が困窮していく、という悪循環に陥ってしまいます。
また、就労に関しては、病気や障害、シングル家庭であるなど、さまざまな事情から家を出て働くことができず選択肢が狭まってしまうという状況の方々もいます。
自分の好きなタイミングで学業や仕事に集中できる環境が提供できる、という点で、パソコンの配布には大きな意義があると佐々木は語ります。
「まずは使ってみて、という気持ちが強いです。それで『自分はプログラミング向いてなかったな』と分かったなら、それこそが僕らにとっては意味のあることなんですよ。機会を提供できたということになるので。パソコンをもらったから絶対に大学に合格しないといけないとか、プログラミングが習得できるようにならないといけないとか、私たちが未来を狭めてしまうのは本意ではありません」
想像よりも多くの若者がパソコンを必要としていた
いま、D×Pでは、提携企業から提供いただくパソコンが一定以上集まったら配布の募集をかける、という形でプロジェクトを運営しており、実施頻度は年間に1〜2回程度。
リソースが限られている中、なかなか規模を拡大できないもどかしさがありますが、少しずつでも拡大し、続けていきたいと佐々木と宮崎は語ります。
今年6月〜7月に実施したプロジェクトから、これまで10代が対象だった年齢を25歳までに拡大しました。宮崎は、「20代の方の応募が思いの外多かった」と振り返ります。
「大学に通っている方や、一時は就職をしたもののいろんな要因でお仕事を辞めざるを得ず休職中で、仕事探しのためにパソコンが必要という方もいました。10代だけでなく、もっと幅広い年齢で、若者がパソコンという資源を必要としていることがわかりました」
「応募してくださった方々がお持ちの背景が、かなり複合的だということも改めて感じました。経済的に困窮していることに加え、過去に虐待を受けてきたり、いじめを受けてきたり、不登校の経験があったり。一つだけでなく、いろんなしんどさを抱えている」
パソコン寄贈、という入り口をきっかけに……
今回のプロジェクトでは、LINEでユキサキチャットを友だち登録することが応募条件の一つだったため、パソコンの給付の選考を通じて食糧支援につながったり、相談が始まったりといった事例もあったそう。
佐々木も選考を振り返り、「制度の間(はざま)にちょうど落ちてしまい、公的な支援を受けられない人が目立つ」と指摘します。
「親が離婚調停中で、条件が合わず給付型の奨学金が取れないとか、民間のシェルターに保護されていたため、児童養護施設に入っていたら使えていた制度が使えないとか」
「台数に限りがあるため、選考をしなければならないのがいつも辛いんです。応募者のいろんな事情を拝見すると、よくつながってくれた、といつも思います。こういうプロジェクトは、自分で調べないとつながることが難しい。なるべくそこのハードルを低くして、必要としている人にもっとリーチするための方法はもっと考えていきたいですね」
ビジネスセクターとの連携が必要不可欠
また、このプロジェクトは、提携する株式会社ゲットイットさんの存在なしには成り立ちません。ゲットイットさんはハードウェアの保守、メンテナンスの専門家で、CSR事業の一環としてこのプロジェクトに参加してくださっています。得意先の企業で使われなくなったパソコンをとりまとめ、初期化・クリーニングなどを通して使用可能な状態にする、という仲立ちの一連を担ってくださっているのです。
直近の6月のプロジェクトでは、ゲットイットの世一(よいち)さんも選考に参加しました。D×Pが接している若者たちの現状を知り、どのような気づきがあったのか、率直な感想を聞いてみました。
「選考に際して、80名以上の方の応募文(しばしば非常に長文)を読むのは、正直に言って大変でした。応募文には志望動機と併せて、彼ら彼女らがいま置かれている状況、そうなった経緯がつづられています。つらい経験に感情移入したり、私からすると過酷に思える状況に圧倒され、読む手を止めることもたびたびでした。ただ、この、生身の言葉による感情の振動があってようやく、『貧困』やそれによる『若者の孤立』という社会課題が自分にとって無視できない、いつも気にかかる問いに変容したと感じます」
「企業は、日本で最も人手と資金を持つ組織であり、社会課題解決の主役であってほしいと自分は考えます。しかし社会課題をお題目でなく、自分ごとにするには工夫が必要です。誰もが80名の文章を読んだり現場に赴く機会があるわけではなく、皆業務に追われています。特に貧困という課題は、企業の日常(オフィス街の雰囲気や動く金額など)や社員の比較的均質な経済状況などから、リアリティを持ちづらく、見えづらい課題に思えます」
「その乖離を縮める方法の一つが、『企業にもよい形をつくる』ことです。今回はある企業から、性能は高いが社内事情により廃棄予定だったパソコンを譲り受け、寄贈する形をとりました。これは提供企業に『廃棄を減らしてリユースを促進し、かつ貧困という社会課題の解決にも寄与した』というSDGsへの貢献につながる実績をもたらします。
「企業にもCSR担当者をはじめ熱心な方はたくさんいますが、企業の存在意義や成り立ちを鑑みても、個人の善意だけではなかなか動かせないことが多いです。活動の意義を多方面の利益とセットで提案し、『担当者が社内で話を通せる確率』を高めようと試みています」
「入口は利益や綺麗事でも、活動が進む中で自分のように課題のリアリティに触れ、自分ごとにしていく人が増える。その人たちがまた企業を動かしていく。企業のCSRに対し、そのようなイメージを自分は持っています。次の選考では、応募者のプライバシーに配慮しつつ、選考過程に関わる人を増やし、自分ごとに感じられる企業側の人を増やせたらいいな、と考えています」
今後は、パソコンを寄贈してくれる企業をもっと増やし、このプロジェクトの輪を広げていくことができないかと画策してくださっています。
「真面目なこと」だけじゃなくていい
宮崎に、改めてこのプロジェクトの意義を振り返ってもらいました。
「最近は、GIGAスクール構想で小中高生がiPad等に触れる機会が増えましたが、学校にいる間しか使えなかったり、ダウンロードできるソフトウェアに制限があったり、ということも聞いています」
「私は、学校の課題や職探しといった『真面目なこと』だけに使わなくてもいいんじゃないかな、と思ってるんです。YouTubeを見たり、自分の推しを調べてそのファンコミュニティに入ったり、そういうオンラインの世界に触れることで選択肢や機会が広がると思うんです。また、制度の間で困っている方と、このプロジェクトを通じてつながることができるのも意義があると思っています」
当たり前のインフラとして浸透しているパソコン。それを手にすることは、本来、決して贅沢なことではないはずです。
少しでも多くの若者たちに、いままでになかった選択肢を届けることができれば。自分自身を知り、自分の人生を楽しんで生きていくための一助となってくれれば。そんな思いで、D×Pはこれからもパソコン寄贈プロジェクトを続けていきます。
執筆:清藤千秋(株式会社湯気)/編集:熊井かおり
クラウドファンディング実施中!
続く物価高。今秋にかけても値上げラッシュが発生するなか、その影響を大きく受けるのは、親に頼ることができず、困窮する若者たちです。年末年始は困窮する若者たちにとって孤立を深める期間です。食糧の緊急発送が急増する12月まで、あと1ヶ月半。D×Pでは全国の若者への食糧支援を提供するため5,000万円を目標に、12月20日までクラウドファンディングを実施しています。ぜひ応援や記事のシェアなどをお願いいたします。
よかったら、ご意見・ご感想をお寄せください!
ここに書かれた内容はD×PのWEBサイトやSNSでご紹介させていただくことがあります。