D×Pタイムズ
D×Pと社会を『かけ合わせる』ニュース
D×P×スタッフ

食糧を届ける相手に思いをはせ、つながる。梱包の現場を担う山田さんが考えていること。

「D×Pのお仕事をする時って、なんだか、すごく安心感があるんですよね。嬉しいんです。こういう組織があって、本当に食べるものに困ってる人たちのためにいろいろ考えて、具体的な支援ができるということが」

今回、D×Pで働く人の日常や本音を映す「スタッフインタビュー」に登場してもらうのは、若者に届けるユキサキ支援パックを梱包するスタッフとして働く山田さん。

登録者数が1万4000人を超えるD×PのLINE相談「ユキサキチャット」では、保護者に頼れず困窮する15〜25歳の若者に無料で食糧支援を行なっています。発送先の方の家のキッチンの環境、生活の状況、アレルギーや体調の状況なども細かくヒアリングしながら、喜んでもらえるものを選び、梱包していきます。

相手の顔が見えないながらも、最大限の想像力を働かせて目の前のお仕事と向き合う山田さんに、お仕事への思いや、ご自身が大切にされていることを聞いてみました。

ひとりひとりの事情を把握しながら、一箱ずつ梱包

──食糧支援の現場のお仕事について、まず教えていただけますか?

食糧の梱包作業では、お送りする方にどんなアレルギーがあるか、苦手なものはないか、どんなものが好きかといった内容を、チャットで相談員さんにヒアリングしてもらっていて、そのリストを見ながら、約2週間分の食糧を、一箱ずつ手作業で梱包しています。

お湯さえあればつくれる「お湯のみセット」や、「常温セット」など、さまざまな状況に合わせて内容を組み合わせます。要望に応じて生理用品などの日用品も梱包。

基本的なものとしては、冷蔵保存の必要がないレトルトのカレー、ハヤシライス、パスタソース、それから焼き鳥缶などの缶詰系、カップスープ系などです。お米やパスタなどの主食や、そのまま食べられるようなゼリー飲料系、プロテインバー、お菓子もあります。

炊飯器が使えなかったり、時間がないという方には、レンジでチンするごはんパックに切り替えたり、逆にレンジがないという方にはお湯だけで調理できるもののみを入れたりしています。

例えば、「仕事先で簡単に食べられるものがいい」「配送の仕事をしているので、ドリンクは多めがいい」「オーバードーズ(薬物の過剰摂取)をしてしまうことがあるので、固形物だと辛い」などの希望をいただくこともあります。紙の上の情報だけだとわからない場合は、相談対応をしているスタッフの方に、チャットでこれまでどんな流れで相談が来ていたか、ということをヒアリングしにいきますね。

お腹を空かせている人に、安心を感じてもらえるように

──食糧支援のお仕事では、いろんな方の暮らし、境遇に触れると思います。山田さんがお仕事を通じて、改めて発見したこと、気づいたことなどはありますか?

食事に困っている人は、想像以上にいらっしゃるんですよね。お仕事をしているからといって、生活の基盤が安定しているわけではないという方も多い。いろんな事情があるんだな、と感じます。

それから、アレルギーって本当にたくさんあるんだなと感じました。卵、牛乳、小麦、甲殻類など、細かな項目を自分で確認しながら選ぶのも大変だろうし、いろいろ考えながらご飯を用意するのも負担だろうな、と思います。

あと、やっぱり、お腹空かしている時って、けっこう精神的に不安定というか、とにかく、しんどいじゃないですか。それは、自分の体験からも分かりますし、いろんな人の話を聞いても感じるところです。だから、箱をパッと開けた瞬間にグチャっと見えないよう、少しでも綺麗に見えるように揃えて入れたり、メッセージカードなども見えやすい位置に添えて安心を感じていただけるよう工夫したり、というのは意識していることです。

はじめて食糧を送る方に同封するメッセージカード。スタッフが手書きでカードを書いています。

アート活動を軸に、人と人との縁やつながりの中で働く

──山田さんが、D×Pのお仕事と出会う前の、これまでのお話も聞いてみたいです。もともと、社会福祉や、困窮支援といったテーマに関心が高かったのでしょうか?

いえ、まったく違いまして。アート活動を主軸にいろいろな仕事をしておりました。そういったテーマへの関心がなかったわけではないですが、ほとんどアートのことばかり考えていました。アート活動自体は大学からはじめました。

私立の一般大学だったんですが、美術の部活のチラシを見たのがきっかけで作品づくりを始めて、アート活動はいまでも自分の人生の大切な軸になっています。

アートだけでは食べていけないと、卒業するときに就職活動をしていたら、いろんなご縁があってバーテンダーとして修行することになりました。いま思えば、人と接するということをいろいろ知りたかったという感じでしょうか。

木の枝を組み合わせた山田さんの作品。「最初の頃は、これはイマジナリーな友達で、寂しいとか、孤独という感じを表現しているのかなと思ったんですけど、最近はどちらかというと、過去の自分を救っているというイメージかなと」と山田さん。

バーテンダーをやめたタイミングがちょうどコロナ禍で、やりたいアート活動を続けながら、食べていけるぐらいの仕事量をなかなか得られず困っていたところ、北摂ワーカーズ(※)で代表をしていた大学時代の知人に声をかけてもらったんです。

北摂ワーカーズは、企業に雇われて働くのではなく、地域の人とのつながりのなかから自分たちで仕事をつくり出すことをテーマにしている労働者協同組合です。いろいろな仕事をしていて、その内いくつかは、元々メンバーが関係を持つ組織から業務を委託されて請け負っているものもあります。 D×Pさんとはこの形でつながり、ユキサキ便の梱包作業を請け負わせていただいております。

現在僕は、北摂ワーカーズではD×Pのお仕事やいくつかの仕事をしつつ、それとは別に個人的につながりのある飲食の仕事や舞台の仕事など、バランスをとって掛け持ちをしております。どの仕事も、自分のアート表現につながる部分があるので、やりがいを持って仕事をさせていただいてますね。

いろんな可能性があって、いろんな世界があるということ

──アート活動をずっと続けられているんですよね。山田さんの人生にとって、アートはどんな存在なんですか?

僕は、同級生から「教育」されることがすごく多かったんです。言いやすいとか、僕がそういうキャラなのかもしれないんですが、「正しさ」をたくさん押し付けられて、いろんな固定観念にがんじがらめになっていたな、と思います。

でも、大学生の時にアート活動に出会ってから、その固定観念を外せるようになって、いままで白黒だった世界が輝いて見えたんですよね。だから、アートはある意味自分にとって自己治癒のようなものだと思っています。

年間、15回程度は展示をしているそう。「誰かに見てもらって、新鮮な解釈をしてもらうのも面白いことだし、可能性がより広がって、冒険するようなわくわく感があります」

固定観念に苦しめられた僕にとっては、いろんな可能性があって、いろんな世界があるということが救いなんです。それはD×Pさんと関わるようになってから、より実感するようになったことでもあります。

D×Pさんは「否定せず関わる」ということを大事にしていますが、僕も、生きる上で大事だなと思うのは、受け止めていきたい、ということ。誰かの話をとりあえずは受け止める。「そうなんだね」と聞く。そこから消化していく。一旦そうするだけで、その話からいろんな可能性を模索できると思うんです。

D×Pさんはまさしくそれを実践していますし、その事実だけで僕にとっては生きやすさになるといいますか……あんまり上手く言えないんですけれど。

──D×Pでの仕事は、山田さんのアート活動にも影響しているんでしょうか?

特にD×Pのお仕事をする時って、なんだか、すごく安心感があるんですよね。嬉しいんです。こういう組織があって、本当に食べるものに困ってる人たちのためにいろいろ考えて、具体的な支援ができるということが。

だから、アート制作で、ネガティブじゃなくて、割とポジティブなものが作れるようになったのは、D×Pさんの影響も感じています。この世界は本当にしんどくて大変だけど、そんな世界に、D×Pという組織が存在しているということを知ることができて、安心感につながるし、出会えてすごく良かったと思ってます。

梱包するドリンクにかけられたメッセージ

記憶に残る、家賃1万円のシェアハウスのこと

──「安心」という言葉で思い出したのですが、このスタッフインタビューに同じく登場してくださった、ユースセンターのスタッフ・アニーさんが、「安心して不安定になれる場所をつくりたい」とおっしゃっていました。

「安心して不安定になれる場所」ですか……なるほど。それを聞いて思い出したことがあるんですが、僕は大学生の最後の年に、就職活動中、お金がなくなって、先輩が運営している家賃1万円のシェアハウスを紹介してもらったんです。それは古い商店街の中にある倉庫みたいなところだったんですけど、いろんな人が出入りしていたんですよね。会社員やフリーター、さまざまな事情で仕事が出来ない人、活動家など、いろんな人がいました。

誰かが声をかけるわけでもなく自然と何人か集まって、鍋を囲んで、くだらない話ばかりしてましたね。なんというか、「ここにいていいんだよ」という安心感がものすごくある空間で、僕にとって、あそこでの経験はけっこう衝撃というか、うれしい出来事でした。いま思うと、あれは「安心して不安定になれる場所」だったのかもしれません。

「一緒にやる」という関わりかたを大切に

──「安心して不安定になれる場」が社会にもっと増えるといいですよね。最後に、この記事を読んでくれる人に届けたいメッセージや知って欲しいことはありますか?

僕は、人に対して何か言える立場ではないし、そういうのはあまりしたくなくて。

食糧支援を手伝いにいらしてくださるボランティアさんや、学生さんに対しても、「指導する」「教える」じゃなくて、「一緒にやる」という関わりを意識しています。僕は、子どもの頃に同級生から謎に教育されて、すごくしんどかったので。教える・教えられるという上下関係ができてしまうのが、すごく不安につながりやすい気がします。

自分が教える立場に立った時は、言い方は気をつけたいし、とはいえ気にしすぎもよくないし、そのへんのバランスは模索中です。時と場合などによって変わってくるので、難しいところですが、それでも出来るだけ、「一緒にやっていきたい」と思える場が増えたらいいなと感じているところです。

──上下でなく「安心につながる関係」、大事ですね……。

なんていうか、できるなら、みんなでのんびり過ごしていきたいですね。お腹を満たして、たまに口笛を吹いたりしながら、生活の日々を一緒に楽しめたらいいなぁと、のんびり考えてます。笑

聞き手・執筆:清藤千秋・南麻理江(株式会社湯気)/編集:熊井かおり

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