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D×Pと社会を『かけ合わせる』ニュース
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NPOの法務・経理ってどんなことをしているの? D×Pに欠かせないバックオフィスのお仕事と、その熱い思いに迫りました。

D×Pで働く人の日常や本音を映す「スタッフインタビュー」に今回登場してもらうのは、経営管理部のまゆさん。経理・SE(システムエンジニアリング)・法務の3つの部門でマネジャーを務めています。

若者たちと現場で接するスタッフたちを支えるバックオフィス業務を担い、「NPO法人ならではの複雑な会計処理」「法律上の問題はないかの検証・対応」など組織の基盤を固める業務と日々向き合う、まさに縁の下の力持ち。普段は光が当たることの少ないお仕事の細部と、まゆさんが若者の支援にかける思いを聞いてみました。

公務員時代に感じていた違和感と、D×Pとの出会い

──まゆさんは、D×Pにいらっしゃる前にはどんなお仕事をされていたんですか?

もともとは、ある市役所で行政職員として働いていました。D×Pで働きはじめてからは約2年半になります。

公務員の仕事はどうしても「受益者にとってどうか」よりも「ミスがないこと」「公平であること」を重視しやすい面があります。もちろんそれはとても重要なのですが、もっとできる支援があるのでは、と私は違和感を感じていました。

男女共同参画の部署で働いていた時、こんなことがありました。ちょうど「生理の貧困」※に関心が集まったタイミングでした。多くの自治体が「生理の貧困」に取り組もうとし、わたしの働く部署でも窓口で生理用品を配るという支援をすることになったんです。

※生理の貧困とは、経済的理由などにより、生理用品を入手することが困難な状態にあること。

もちろん、生理用品が無料配布されたことで助かった方もたくさんいらっしゃると思います。でも、窓口で職員に声をかけて生理用品をもらうのに抵抗感がある人がいてもおかしくないですし、窓口も9時-5時しか開いていないので必要な時に使えない人もいると思います。そこで私は、トイレの個室で生理用品を提供する「OiTr(オイテル)」というディスペンサーのサービスを、窓口を介さず利用できる方法のひとつとして提案したんです。しかし当時は前例もなく、代案を検討していくことも難しい状況でした。

そんなときに、「ユキサキチャット」が食糧支援の文脈で生理用品も送っているということを知りました。それがD×Pとの出会いです。そんな支援ができる場所で働きたい! と思って調べたら、ちょうど経営管理部のスタッフ募集が目に入って、すぐに飛び込みました。

「ユキサキ支援パック」では、相談者の方から希望を聞きながら、必要に応じて生理用品、ボディーソープなどの日用品も届けています。

現場からの「こんな時どうすればいい?」に答え続ける

──D×Pが向き合っている、若者の孤立という社会課題には、まゆさんはそれまでも問題意識を持っていたのですか?

私は、元々「ちょっと変わった子」だったと自分では思っているのですが、リアル社会の中で出会う大人とは話が合わないなと思うことがよくあったんですよね。ちょうどインターネットの普及が進んでいるタイミングだったので、学生時代からインターネットで人と出会い、話すことが救いになったこともあり、同じように悩みを抱えている若者がたくさん居ることもなんとなく感じていました。

だから、チャットで相談でき、必要があれば現金や食糧を給付するというユキサキチャットのようなシステムが、公的機関などとリアルでつながることが難しい若者への支援方法としてすごくいいなと思いました。

──D×Pに実際入ってから気づいたこと、より実感したことはありますか?

オンラインで出会った友達やニュースなどの情報から、孤立している若者たちがいるということは知っていましたが、D×Pに入ってから、より困りごとの「解像度」が上がったように思います。

例えば、D×Pが若者を対象に現金給付をする時のことを例にとってみます。通常は、指定の銀行口座に振り込むか現金書留で送るのが基本なのですが、ご家族に入金がばれると暴力を受ける危険があったり、受け取ったお金をご家族にとられてしまう可能性があったり…といった事情を抱えていらっしゃる場合があります。

他にも、病院に同行支援に行く際、「スタッフが緊急連絡先になっても大丈夫なのか?」という相談もありました。

もちろん支援する若者のことを考えれば、D×Pのスタッフが緊急連絡先になるのがベストです。ただ、万が一そのスタッフが電話を取れず、それによって問題が起きるといった可能性もゼロではないため、とても難しい問題なんです。

例えばこういったケースでは、緊急連絡先が求められている背景についても聞き取ったうえで、病院側と交渉する余地があるのか、既に行政がその若者に関わっている場合は何か協力してもらうことはできないか、あるいは民間のサービスを活用できないかなど様々な可能性を模索しつつ対応に当たりました。

このように、「こんな時どうすればいいか?」という現場からの声を受け、私は法務として対策を検討します。公務員時代、法律や規定、規則にかなり触れてきたので、その時の知識や経験値に助けられています。

具体的な支援対応を決めるのは現場のスタッフで、その支援をD×Pが行なう上で法人としてのリスクは無いかということをチェックするのが、私の仕事ですね。

経営管理部で働くスタッフ

どんな相談を受けても「できません」は簡単に言わない

──すると、まゆさんのもとにはD×Pの各部門からいろんな相談が寄せられるのではないでしょうか……!

そうですね。困った時や、まず何から手をつけたらいいのかわからない、というときに声をかけてもらうことが多いです。

──しかも、経理のマネージャーまで担当されているんですよね。

はい。寄付や助成金などの収入が多いNPOという特性上、非常に高いレベルでの経理処理が求められます。例えば、2,000円のものを買ったとしても、助成金の対象になるのは1,700円分、ということになれば、常にその金額分を法人口座の支出と分ける必要があります。全体的に助成金会計報告というのは非常にややこしくて、会計報告資料等の作成、領収書などの証憑の提出が発生して、非常に人的コストがかかるものなんです。

──まゆさんが普段の業務で心がけていること、特にNPOのバックオフィスだからこそ、という点は何かありますか。

まずは全体的な話として、経理の仕事は、業務の効率と持続可能性が最優先事項。法務の仕事は、リスクと緊急度の高さを見極めることが大事だと私は考えています。

自分の判断の費用対効果が見合っているのか? ということも日々、考えます。どういうことかというと、NPOに寄付してくださる方の中には、「現場にお金を回してほしい」「組織の経費としては使ってほしくない」と思われる方も少なくありません。支援事業における管理部門の大切さを伝える努力をしながらも、管理費を増やさないように仕事を調整するバランス感覚も大事にしています。

また、自分の判断が社会にどんな影響を与えるのかを常に考えています。
現場からどんな相談を受けても「無理です」「できません」と簡単に言わないようにしています。例えば、「リスクがあるから」「手間がかかるから」と何かと理由をつけて「できない」と返答するのは簡単ですが、私の判断は、誰かの人生を左右するほどの影響を与えるかもしれないものです。

提案された方法が難しい場合は、「調べてみたらこんなやり方があるので、これだったら経理的にも問題ないし、現場としてもいけるじゃないか」と代替案まで出すよう心がけてます。あと、対面で時間を取ってしまうと、パツパツな状況で業務を回している現場から貴重な時間を奪うことにもなってしまうので、チャットでコミュニケーションが完結するように意識しています。

現場がバックオフィスの対応を負担に感じないよう、寄り添って「一緒に考える姿勢」が大事かなと思います。

スタッフの困りごとを減らすことが、大きなモチベーションに

──「裏方」の仕事に徹し続けることで、働くモチベーションを維持する事の難しさを感じることはないですか? D×Pのお仕事が紹介される時、表に出るのは現場で若者たちと接しているスタッフであることが多いです。

私は正直、自分が現場のスタッフになりたいのかと言われたら、向いていないんじゃないかと思っていて。自分にはできないことを現場のスタッフがやってくれていると思っていて、すごく尊敬しています。

そういう点で言うと、D×Pに寄付してくださる方々も、自分にはできないことを託したいという思いなのかな、と思うので、私の気持ちは「寄付者」さんに近いのかもしれません。

その代わりに、私はいま、自分が得意としていることを活かして現場の困りごとを解決できる立ち位置で仕事ができている。良いポジションで働かせてもらっているなと思うんです。

自分の仕事を通じて現場のスタッフの困りごとを減らすことができたら、それはひいては若者の支援に使う時間が増えた、ということなので、すごくやりがいを感じています。

D×Pに寄付をしてくださる方からの声。
若者に直接関わることができないからと、想いを託してくださっています。

──こういう制度が増えたらいいな、こういう社会になったらいいのにな、という願いはありますか?

何かの情報を得た時に、それだけで判断せず、その背景には何があるのか、ということに多くの人が思いを馳せられる社会になったらいいな、と思います。

例えば、「家出した」とか「親を殴った」と聞いたら、まず「なんでやねん」「そんなことしたらあかんやん」という感情が出てしまうと思うんです。でも、まずは「どうしてそうしたの?」「今はどう思ってるの?」と問いかけてみる。その理由を聞いたら「その選択はベストじゃないけど、その苦しい状況で耐え続けるよりはよかったのかもね」と聞き手の感情が変わることってたくさんあるんですよね。

そういうコミュニケーションを怠らずに、丁寧に接することができる社会になって欲しいな、と感じます。

聞き手・執筆:清藤千秋・南麻理江(株式会社湯気)/編集:熊井かおり

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