声を届け、声を上げ続ける組織でありたい。D×Pが目指す2024年の姿【代表・今井紀明・新年のメッセージ】
グリ下に集まってくる若者たちの様子が、社会現象的にメディアで取り扱われるようになって、ずいぶん経つ。
2021年夏頃から、誰からともなくグリコの看板の下にたむろし始めた若者の多くは、虐待や不登校など、大人から傷つけられたさまざまな経験を持っている。みんな、社会に対して何か直接的な抵抗をするわけでもないけれど、同じような境遇の仲間とつながって孤立を防ぎ、コミュニティをつくることで、自分たちを守ろう、生き残ろうとしているのだと思う。その行動は若者たちの力なのだと、僕は昔から感じていた。
2023年6月27日、D×Pは、グリ下から5分圏内の場所に、若者が安心して利用できる・主体的に活動できる居場所としてユースセンターをオープンした。虐待や暴力、性被害などで傷ついた子の保護などの深刻な状況にも対応しつつ、僕らは、子どもたちが主体的に力を発揮できる場としてユースセンターを構想したかった。
子どもたちにとって居場所とは、あたたかい食事でお腹を満たせる場であり、友だちと過ごす場であり、ゆっくり眠れる場であり、新しい出会いを経験をする場でもあると思う。
ユースセンターの他にも、D×Pは2023年にいくつか大きなチャレンジをした。子どもたちのために、いまできることはなんなのか? 2024年を迎えたいま、昨年を振り返りながら、改めて目指すものを声に出してみたい。
ユースセンターは、想定よりも多くの若者に必要とされている
2023年、僕たちは3つの大きなチャレンジをした。1つが前述した6月のユースセンターのオープンだ。
もともとD×Pはグリ下にテントを出し、フリーカフェという形で運営してきた。ただ、テントだから冬は寒いし、人の出入りが激しい中で「実は妊娠していて誰にも頼れなくて……」みたいな深刻な相談はできない。
もっと安心できる居場所がつくれないかという構想はずっとあって、去年の3、4月頃に物件を探し始めた。かなりのスピードで実現した計画だ。
正直、若者たちは利用してくれるだろうか? という不安もあった。大人への信頼が極めて低い子が多いからだ。しかしオープンしてみると、1回30名くらいが来るかなという想定を超え、2倍以上の人数が来ている。
いまは住所を公開しておらず、これまで関係性をつくった子たちから口コミで広がっているが、住所を公開したら100人単位で増えていくと思う。そうなると僕らのキャパが圧倒的に足りなくなってしまうから、いかに体制を強化していくかが課題になってくる。
また、子どもたちのニーズ、属性の分析もアンケートなどを取って検証することも必要だ。今後、政策提言にも力を入れていく上で、数値やデータが提示できるかどうかでその情報の厚みも変わってくる。
リアルだけでなく、オンラインのセーフティネットも
2つ目のチャレンジは「ユキサキチャット」の認知拡大と体制強化だった。
僕らは「2030年ビジョン」というものを掲げていて、それは、2030年までに対象としている孤立した若者たちの3割に支援を届けるというものだ。この国の13〜25歳の人口は約1500万人とされていて(※)、貧困線などをもとにすると、ユキサキチャットの支援を必要としている子たちの人数は200万人ほどだと推計している。
(※)総務省統計局 人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)結果
まだまだ支援を届けることができていない層がいることを想定しながらInstagram広告を強化したところ、2023年はユキサキチャットの登録者数が昨年比で1700人程度増加し、最新の登録者数は12,539人となっている。
食糧支援は、毎月ごとに前年比を確認すると平均で約1.6倍(2023年10月末までの食糧支援発送数との比較)というペースで増えた。加えて人員も増やし、業務効率化を進めてきた。時間が捻出できれば、個別でより細やかな対応ができるからだ。
2023年は物価高が話題になった。みずほリサーチ&テクノロジーズが発表したレポートでは「食料・エネルギー価格が上昇すると、低所得世帯ほど相対的に負担が重くなる」(※)と発表されている。子どもたちの声や、求める内容自体は例年そんなに大きく変わるものではないけれど、ひとり親家庭、虐待の経験など「親に頼りづらい」理由を抱えた子たちが物価高の皺寄せを受けたことは間違いない。
身近な大人は頼れないけれど、ネットでなら気軽に連絡できる、ということにメリットを感じてくれている子たちもたくさんいるから、ユキサキチャットには引き続き力を入れなければと思っている。ユースセンターはリアルなコミュニケーションが生まれる場だが、オンラインのセーフティネットも必要なのだ。
(※)止まらない物価上昇と家計負担増~2022年度家計負担は+9.6万円、2023年度は+4.0万円:Mizuho RT EXPRESS
ひとつの団体の力だけでは理想とする社会は実現しない
3つ目は、NPOへの資金提供とノウハウ提供だ。D×Pは休眠預金活用事業であるREADYFORさんの資金分配団体となり、7つの団体へ資金・ノウハウ提供を行なった。
D×Pにはもともと、「一社では支援しない」というポリシーがある。複数の支援団体が介入することで初めて、手厚く支えることができるという考え方だ。僕らが仮に独占的に成長していっても手は回らないし、理想とする社会は実現しないから、横のつながりはどうしても必要だ。
いま、社会を見渡すと、誰しもが生き残るために必死で、余裕がないのが伝わってくる。そんなしんどい社会の中では、「D×Pの仲間になってください」「子どもたちのために支援を」と打ち出しても届きづらいのかもしれない。気候危機や、ガザの虐殺などの国際問題、ジェンダー不平等など、課題や不条理が溢れる中で「子ども・若者の貧困」というイシューに関心を持ってもらう難しさも感じている。
でも、数少ない人たちの脳みそのキャパの奪い合いのように考えるのではなく、大事なのは、ひとりでも多く “新しく関わる人” を増やす努力なのではないだろうか。
以前、サッカー選手の方が寄付をしてくださったことがあった。それをSNSでシェアしたところ、これまでとは全く違う層の方からメッセージをいただいたり、寄付の輪が広がったことがあった。
困っている人のために何かしたい、と思っていても、「寄付」という選択肢が頭に浮かばない人もいる。だから僕は、たくさんの領域を飛び越え、いろんな人に「こんな問題に興味はありませんか? 一緒に何かできないでしょうか?」と声をかけたい。それはスポーツ業界かもしれないし、映画、マンガ、アニメの世界かもしれない。
当然、領域が変われば前提としている常識も異なるだろうし、細かい考え方の違いもあるだろう。でも、「子ども・若者たちのために」という一つの旗のもと集まり、連携して問題を解決することが大事なのだと思う。
連携を深め、ユース世代のセーフティネットをより広げる年に
そうした連携の先に、僕らが構想しているのは、街全体を「ユースセンター化」していくことだ。
D×Pのユースセンターだけを拠点にするのではなく、繁華街全体にセーフティネットを張り巡らせ、お店と組んでイベントをやったり、体を動かしたい子どもたちが目標を持って打ち込めるジム、ライブハウスも利用できたら、より文化的で、子どもたちの個性を伸ばす支援ができるようになるだろう。
もしD×Pが地域のイベントなどで関わることができたら、地域で失われた地縁を結び直す貢献もできるのではないだろうか。壮大な目標だから、そのために、ますますたくさんの仲間やつながりが必要になる。
また、ユキサキチャットのニーズは極めて大きい。前述したように、13歳から25歳の人口・1500万人から割り出した200万人に、オンライン上のセーフティネットを広げていかなければならない。困難の只中にいる子ども・若者たちの「声」を拾い、相談に乗る環境づくりを、ムーヴメントのように拡大していけたら、と思う。
そして、D×Pは2024年も常に声を上げ続ける組織でいたいと思っている。
インタビュー・執筆:清藤千秋(株式会社湯気)/編集:熊井かおり
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書いた人: 清藤 千秋
編集者・株式会社湯気 ライター
1992年千葉県生まれ。ライター。
ファッション業界、編集プロダクションを経て、2020年ハフポスト日本版に入社。ビジネス部門でクリエイティブディレクターとしてコンテンツ制作に携わる。現在はフリーランスのライターとして、 ジェンダー、SDGs、ビジネス、カルチャーなどのテーマで幅広く執筆。
2022年参院選で「女性に投票チャレンジ」参画。世田谷ボランティア協会情報誌「セボネ」編集員。
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