「ひとりの人間として関わっていきたい」わたしがD×Pで働き続ける理由
D×Pでは居場所事業として、定時制高校のなかに週1回安心できる場所をひらいています。それが「いごこちかふぇ」です。
「いごこちかふぇ」は校内カフェとして、悩みごとがなくても気軽に訪れることができる場所で、学校によっては食事やお菓子、飲み物などを提供しています。生徒は授業前や後にスタッフやコンポーザー(ボランティア)や友達同士で話したりゲームをしたり、端っこの席で仮眠をとったり、それぞれが自由に過ごしています。
今回はその居場所事業をおこなっている「生徒と社会をつなぐ事業部」のマネージャー、ほのかさんにお話を伺いました。
コンポーザーからインターンを経て、職員へ
──ほのかさんはなぜD×Pにジョインされたんでしょうか?
最初にD×Pに関わったのは職員としてではありませんでした。2018年、大学4年生のときにコンポーザーとしてクレッシェンドに参加したことがきっかけです。
クレッシェンドとは?
認定NPO法人D×Pが通信制・定時制高校で行なっているプログラム。高校生とD×Pのボランティア「コンポーザー」が対話する全4回の授業です。ひとりひとりに寄り添いながら関係性を築き、人と関わってよかったと思える経験をつくります。
それでもっとD×Pにコミットしたいと思ったので、2019年にインターンとして1年間働いて、2020年から職員になりました。2019年のときは高校の先生を非常勤でやりながらインターンもやっていて、朝学校に行って授業が終わったらD×Pの活動に行ってました。
──2019年はすごく忙しかったんですね。そもそも大学4年生のときにコンポーザーとして関わろうと思ったのはなぜなんですか?
私のお知り合いの方とのりさん(D×P理事長:今井紀明)がトークイベントをするというので、聞きに行ったのがきっかけです。
もともとお知り合いの方の話を聞きに行ったのですが、のりさんの話がめっちゃ面白くて(笑)小さなイベントだったからのりさんとも話すことができて、「何かできることってありますか?」って聞いたら、「コンポーザーとかどう?」って言ってくれたのがきっかけです。
元々大学のときは学校の先生になりたいって考えていました。でも高校生と直に関われる機会が教育実習くらいしかなくて。教育実習以外に、もうちょっと現場で関わるイメージをつけたいとも思っていました。
──最初は貧困とか生きづらさの問題に関わりたいというよりも、教育現場の場数を踏みたいという動機だったんですか?
それでいうと、もともと生きづらさみたいなものに関心はありました。でも学校の先生くらいしか高校生と関われる機会がないと思っていたので、先生を進路の選択肢に入れていたんです。
もともと自分自身が中学、高校と生きづらかったというのがあって、いじめで学校になかなかいけない時期もありましたし、家庭で居心地の悪さを感じていたときもあって。周りと違うなって思うところがたくさんあって生きてきて、私自身は学校の先生に助けてもらいました。
私はたまたま助けてもらったんですけど、大学生くらいになってふと周りを見てみると、結構みんな生きづらそうやなぁって思うところがあって。自分自身だけが辛いわけじゃないし、誰もが助けてもらえるような環境にあるわけでもないんだなと思ったときに、もっと自分より若い人たちもきっと生きづらさみたいなものを抱えてる。
それがありながらも楽しく過ごせる環境をつくれたらいいなぁと思いました。でも先生をやってみて「なんか違うな」って思ったから、D×Pの職員になりました。
──D×Pとして高校生に関わるのと、先生として関わるのは何か違いがあったんですか?
うーん…私がいた学校では、先生という肩書きだけで話しかけられるのが嫌っていう子が多かった、というのが正直なところですね。D×Pのコンポーザーとか職員になって先生という肩書きを取っ払って関わってみると、「先生には言わないけどここでは言う」みたいなことが多くて。
そのときはインターンと先生の両方をやっていたので、肩書きや立場だけでもこんなにも違うんだって思うことがすごく多かったんです。小学校、中学校とかで先生に指導されてきて嫌な思いをしてきた子たちもいたので、仕方がないとは思いながらも先生とは違う立場で関わりたいなぁと思いながら、学校では働いていました。
──D×Pで先生とは違う立場で高校生と関わったら、ほのかさんにとってはそっちの方がしっくりきたということなんですね。D×Pの職員になられてから、どのようなお仕事に関わってこられたんですか?
基本的には「生徒と社会をつなぐ事業部」にいます。でも入社したのがちょうどコロナ禍だったので、最初はLINE相談のユキサキチャット事業部も兼任していました。ユキサキチャットの方も現金給付を本格的にやっていくっていうフェイズだったから、人手的にも必要だしっていうことで。
2020年度の春先から、学校にもよりますが、3カ月~半年ほど居場所事業が実施できない時期がありました。もらえたはずの予算がもらえなくなり、そもそも実施できなくなった学校もあったんです。再開しても3密を防ぐために、通常はどの学年でも一緒に来てもらえるんですが、1日1学年のみの利用だったら良いというところもあったりしました。
それだとひとりひとりの生徒にとっては3週間に1回くらいのペースでしか行けないんですね。それから要パーテーション、要マスク、飲食NG、トランプなどの複数の人が同じものに触れるようなゲームは置かないなどさまざまな制約がありました。翌2021年度、またコロナ感染者が増え、ある学校では居場所事業が実施できない時期もありましたが、大阪はなんとか大丈夫でした。
居場所事業の重要性
今年はユースセンターの活動を行なう、新規事業部も兼任しています。そう考えると、なんだか色んな事業部にいるなって思います。でもマルチタスクが得意じゃないし、頭の切り替えがすごく大変だから、ちょっと混乱しちゃうときもありましたけど、各事業部の違いとか、それぞれの良さとかが、自分の体で肌感で感じられるのでやっててすごくいいなって思います。
定時制とか通信制で出会う子たちもユキサキチャットを使って相談したいって言ってくれる子がいるので、その事業部のことを分かってたら紹介もしやすいし、ユースセンターの事業も同じです。学校で出会った生徒でセンターに行きたいっていう子がいたら案内しやすいから、すごくいいことをさせてもらってるなって思います。
──ユキサキチャットと居場所支援って、良い面、悪い面、できること、できないことって全然違うと思うんですけど、オンラインとリアルとの違いで感じたことってありますか?
うーん…なんですかね。ちょうど私が入社したのが2020年はコロナが流行った最中だったから、ああいう状態のときでも誰かと連絡とりあって雑談ができたりとか反応が返ってきたりとかは、やっぱりオンラインの良いところだなと思います。
一方でコロナ禍で居場所事業ができない期間が明けて、生徒から「待ってた〜」とか「また会えてうれしい!」みたいな反応があって。やっぱり対面であって話せる場があるってすごく大事なことだなって思っていて。いまやっている居場所事業の重要性もすごく感じてきています。
相手が話していることに対して返事があるというか、「めちゃうれしかった」とか「聞いてや、めちゃ悲しいことがあった」「何があったの?」とかって、その場で感情を共有できる場があるってすごく大事だなと思います。定時制とか通信制の現場では学校に行けばそれがあるっていう、居場所に参加するハードルの低さもすごく大事だなって思いますね。
居場所事業をするときに先生と話していると、「ご飯を食べれていない子がいるから子ども食堂に一緒に行ったんだよね」っていう話があって。だけど学校よりも子ども食堂までは距離があって、自分で歩いていかないといけないから、つながらなかったっていう話を何度か聞いたことがありました。学校で授業を受ける前とか後とかに寄っていけるぐらいが参加しやすいんだろうなって思うので、そこが居場所事業のいいところかなって思います。
──居場所事業って学校なんだけど学校じゃないような、不思議な感じですよね。学校に通うことの間口も広がっている気がしました。
ほぼ毎回来るような生徒なんかだと、いいごこちかふぇに寄るために学校に来たと話すような子がいて。始業前にいごこちかふぇに来て、その後に授業に行っているので、つながっていてよかったなと思っています。
基本的には相談とか支援からスタートするのではなく、楽しくお話をしたり、ゲームをしたりする場ではあるんですけど、気にかけてくれるスタッフとかコンポーザーさんがいることで、結構悩み相談とかも出てくるようになって、それもすごくいいところだなって思ってます。
自分の言葉で「困ってるんだよね」とか「助けて」とか言えなくても、「最近元気にしてる?」とか聞いてくれる人がいることで、自分の思いとかを表明しやすいのかなって思うんです。ユキサキチャットは相談が入口だと思うから、悩みがすでにある子にとってはすごく相談しやすい。でも悩みがあるかどうか分からないみたいな子たちの声をキャッチしやすいのが、居場所事業のすごくいいところだなって思ってます。
──確かに相談場所って言っちゃうと、相談したいことがなかったら関係ないじゃんって思っちゃうかもしれないですよね
そうですね。もともと2019年ごろまでは進路相談ができる場としてオープンしてたんです。利用する子も多かったし、来てみたら雑談する子もいました。それも場としては良かったなと思うんですけど、その年に実際に利用していた子は全校生徒の3割とか4割くらいでした。
今年はすでに7割、8割くらいの子が一回は利用したことがあるから、やっぱり利用の入り方を広げるっていうのはすごく大事だなと。そもそも居場所事業が始まったのは2017年。ご飯を誰かと一緒に食べる機会がないと定時制高校の先生から相談をいただき、居場所事業が始まりました。クレッシェンドは創業時からやっていたんですけど、もっと生徒と関わる機会をつくりたいっていう思いがあって。
──食べ物を食べていない生徒が多かったという要素もあったんですね。
そうです。いまも食事を食べてないっていう子は結構多い印象ですね。生徒の在籍人数が減ってきているのもあるので、定時制高校によっては給食の業者さんに依頼できる予算がなかったりするって聞いたことがあります。また登校がまばらだったり食べる子が少なくて、結局、学校側がごはんを用意していても食べられないこともあるみたいです。バイトで長く働いているからご飯を食べる時間がない生徒もいますし、電子レンジなどの家電や調理器具がないっていう声もあったりするので、食事のサポートは必要だなって思うことがすごくあります。
──外食はお金かかるから家で食べればいいじゃんって思うけど、そういう場がそもそもないっていうことなんですね。
あとは家に帰ってもごはんがないっていう話も聞きますし、食べれてる生徒でも親がつくらないから自分でつくって食べてるっていう話も聞くので、それはまた別の問題も絡んでくるのかなと思います。お金がないっていう話も聞きます。
世の中的に1日3食食べるのがいいっていう話もありますが、「1 日1食で十分」と思ってる子は多い気がします。それを不思議に思っていない感じ。スタッフがびっくりして「それで体調大丈夫?」って聞いても、「え、大丈夫だよ」って答える感じで。
──さまざまな課題に向き合われてきて、これからのD×Pでやってみたいこと、続けていきたいことはありますか?
そうですね…色々考えていることはあるんですけど、前々から思ってたことはもっと頼れる人間になっていきたいって思っています。なのでいまは社会福祉士の資格を取るために勉強してます。
自分がインターンをしていたときより、コロナ禍になって、居場所事業でもすごく大変な状況にある子からの相談が増えてきたように感じています。悩み相談をもらったときにただ話を聞くだけではなくて、こういう選択肢もあるよって応えられたらいいなって。学校の先生と話すときにも自分の見立てを伝えられたら、もう少し上手く生徒のサポートができるんじゃないかと。
週1回だけですけど新規事業部も兼任していて、その活動の中では緊急的な対応もあるので、さらに自分の見立てを伝える必要性を感じています。そういった意味では、見た目は普通の人でありながら中身は福祉的な知識があるスペシャリストでいたいなって思ってます。
人間同士で関わりたい
──「見た目は普通の人でありながら」ってどういうことですか?
なんていうか…Ⅾ×Pで関わる人のなかには、支援者に苦手意識のある人もいます。過去につながったことがあるけどいやな思いをしたことがあったり、つながったことがないから怖いと思ったりっていう声を聴いたことがあります。私も支援をしようしようと思ってD×Pにいるわけじゃなくて、支援者感をあまり伝えたくないっていうか。
ひとりの人間として関わっていきたいという思いがあるし、支援者と支援を受ける側みたいに上下関係ができてしまうことが嫌で。だから佇まいは普通に過ごしているように見えていても、実際はすごく気にかけているし、何かあれば一緒にどこまでも行くよっていう気持ちでいたいっていう感じです(笑)
──先生と生徒とか、支援者と被支援者みたいな立場じゃなくて、人間同士っていうところで関わりたいっていうことなんですね。最後に仕事をする上で大切にしていることなどはありますか?
コンポーザーさんにお話ししているのは、自分の気持ちを否定しないことが大切ということです。目の前の子のことも大切にするけど、音楽を大音量で流したいとか、言葉がキツく聞こえてしまう子に対して「自分は大人だから」って我慢しないでくださいっていうのは伝えてます。スタッフの中だけでもいいので、自分の気持ちを言ってくださいっていうようにしてます。
事前にこういうケースがあったらどうしますかっていうシミュレーションをするんですけど、ちゃんとしようと思わなくていいですっていうのは言っていて。タバコを未成年で吸ってる子がいたらどういうふうに声かけますかとか、スマホずっといじったままで声かけても反応がない子がいたらどうしますかとかっていうときに、事前のシミュレーションなので皆さん冷静に、心配なんだよねって言った方がいいと思うとか、関わり方をすごく考えてくださるんです。
でも私は「え〜っ」とか言っちゃう気もするし、「わ〜大丈夫?!」とか驚いた感じで言っちゃうとか、今回はタバコの事例を出しましたけど、本当に色んな場合があるので、そう言うときに冷静に「うんうん」っていられないときもあるから、そう言う大人がいてもいいんじゃないですかっていうことをお伝えするようにしています。
目の前のことをすごく大事にしながらも、自分自身のことも大事にしてくださいって言うのは、居場所事業の取り組みの中では大事にしていますね。大人が緊張してても、あたふたしててもいいんじゃないって思ってます。
インタビュー・執筆:青木真兵/編集:熊井かおり
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